そもそも戦争はどのように起きるのか。

一国が他国に対し、何かを求め、いろいろな手段でその取得に努め、ついに究極の軍事手段しかなくなってしまった、という状態が戦争の前提である。その取得目標は植民地的支配の排除でもあり得る。一国が他国の領土を奪取、あるいは奪回したい場合もある。経済的な資源を取得したい場合もある。あるいは積年の民族の恨みを晴らすという場合さえあろう。

ただしどの国も戦争自体が好きということはまずない。植民地支配の争いでも領土紛争でも、まず相手と話し合い、交換条件を示し、懇願し、あるいは圧力をかける。それでもどうにも思いどおりには進まない場合、最後の手段として軍事力で相手を屈服させ、こちらの要求をのませる、ということになる。この最後の手段が戦争なのだ。

だから特定の国が戦争をしてでも獲得したいという利益を得ようとすることが戦争の原因だといえよう。その原因を実際の戦争という結果にまで発展させないようにする国家安全保障の手段が抑止である。

抑止とは、戦争を考える側の国にその戦争から受ける被害が戦争で得られる利益をはるかに上回ることを認識させ、軍事攻撃を自制させる政策である。戦争を仕かけられそうな国は攻撃を受けた場合に激しく反撃し、相手に重大な被害を必ず与えるという意思と能力を保っていれば、戦争を仕かけそうな側の軍事行動を抑えることになる。どんな国でも一定以上に自国が被害を受けることがわかっている行動はとらないからだ。まして負けてしまうことが確実な戦争を挑む国はまずない。

つまりどの国も自国の主権や繁栄、安定を守るためには自衛のための軍事能力を保ち、いざという際にはそれを使う意思をも明示しておくということである。これが自衛のための抑止力のメカニズムとされる。他国の軍事的な侵略や攻撃を防ぐ、つまり平和を保つための手段である。勝てそうもない戦争、自国が却って重大な被害を負ってしまう戦争を避けるのが理性的な近代国家だからだ。