【3】トラウマを解消するはずだったはずが…?
医療は様々な形で施される。体にメスを入れることもあれば、投薬の場合もある、そしてカウンセリングの様にセラピストと関わることによって行われる治療もある。 幼少期に起きた不幸な出来事に起因する不安や依存症に悩まされていたポール・ロザノは、カウンセリングに助けを求め、ハーバード大学医学部出身の女性セラピスト、マーガレット・ビーン=ベイヨッグの元を訪れた。そして彼女に幼少期、母親から受けた性的虐待というつらい記憶について語った。
ビーン=ベイヨッグは、ポールの告白を受け、彼の幼少期を再現し、母と築いた不幸な関係を幸福なものへと再構築し、トラウマを取り去る方法を提案。治療を開始した。
治療内容はポールが赤ちゃんとなり、ビーン=ベイヨッグが母親となるという疑似親子関係を結び、彼女がポールを赤ん坊のように抱き寄せ、『愛しているわ』『ベイビー』と呼びかけ、ポールに対して「『ママ、とっても愛しているよ』と10回言いなさい」などと要求するといったものだった。
この治療にはさまざまなシナリオが用意されており、初期は上記のように疑似母子体験であった。だが、このシナリオが徐々に“異様”な内容へと変わっていく。 ビーン=ベイヨッグはポールと自分を登場人物とした官能小説のような性的内容を含むシナリオを書き、これをポールに強要するようになっていったのだ。そしてついに、“彼女の治療”は、実際に性的関係を結ぶ寸前のところまでエスカレートしたという。当初の目的とはまったく違う“治療”の犠牲になったポールは、残念ながらそれから5年後に自ら命を絶ってしまった。