■殺人鬼の誕生

2009年6月22日、スティーブンは連続殺人鬼になることを決心する。ヨークシャー・リッパーと呼ばれた連続殺人鬼ピーター・サトクリフに強い憧れを抱いていた彼は、ピーターと同じように娼婦を狙うことにした。そして、ブラッドフォードの風俗街で働く43歳のスーザン・ラッシュワースを最初の生贄に定めた。
ヘロイン中毒だったスーザンは、ヘロインを買うために地元ブラッドフォードの風俗街で3年ほど働いていた。35歳で3人の小さな子供を抱えたシングルマザーになったスーザンは、精神的にいっぱいいっぱいになり、ドラッグに逃避する日々を送っていた。ヘロインに体を支配されていた彼女は、なんとかして依存症から抜け出そうとしていたが、それにも金がかかり売春をやめられずにいた。
2009年6月23日、毎日連絡とりあっていた母親が、スーザンと携帯電話がつながらないことを不審に思い警察に連絡。行方不明になってから1週間、2週間経っても手がかりが掴めず、警察は大々的に捜査を行うことにした。家族も地元メディアを通して目撃情報を呼び掛けたが、有力な情報は何一つ得られなかった。行方不明になった日から、携帯電話もクレジットカードも使われておらず、事件に巻き込まれたのか、失踪しただけなのか、はたまた突発的にリハビリ施設に入所したのか、警察は見当がつかず、捜査方針を定められずにいた。

2010年4月26日、スーザンと同じブラッドフォードの風俗街で働く31歳の娼婦シェリー・アーミテージが行方不明になった。16歳で薬物依存症になったシェリーは、ドラッグを買うために売春をするようになった。シェリーも妹と1日に数回、携帯電話で連絡を取り合っており、妹は姉と突然連絡を取れなくなったことを不審に思った。シェリーと同棲していた恋人も「連絡なくいなくなることはない」と警察に通報。行方不明になる前にCCTVが捉えた、ブラッドフォードの街を歩くシェリーの姿もニュースで公開されたが、手がかりがないまま月日が流れた。
その後、電車の中に放置されていたシェリーの携帯電話が発見された。その中には、全裸でバスタブに横たわれる彼女の動画が入っていた。気を失っているのか、死んでいるのか、シェリーはぴくりとも動かず、その遺体に向かって「俺は血風呂のアーティストだ。こいつは俺のアシスタント・モデルだ」と言い放つ男の声が入っていた。しかし、撮影された場所がどこなのか、男が誰なのかも突き止められず、捜査は難航した。なお、この段階で警察は、スーザンの失踪事件とシェリーの失踪事件に関連性はないと見ていた。

2010年5月21日、スーザン、シェリー同様、ブラッドフォードの風俗街で働く36歳のスザンヌ・ブラミレスという女性が姿を消した。学生時代、軽い気持ちでドラッグに手を出したスザンヌはあっという間にヘロイン依存になり、25歳の時からブラッドフォードの風俗街で売春をするようになった。両親もそのことを知っていたが、どうすることもできずに黙認していた。彼女の場合も、毎日連絡をとっていた母親が22日に連絡が全く取れなくなったことを不審に思い、すぐに警察に通報した。