初不明本が急増
そもそも筆者が和歌山市民図書館の除籍リストを調べ始めたのは、同館が新館へ引っ越しをする際に、貴重な蔵書が少なからずなくなっているのではないかという情報をキャッチしたからだった。ところが、調べていくうちに、なくなった蔵書は、同館の除籍関連文書には記載されていないという意外な事実が判明した。なくなったら蔵書はすぐに除籍されるのではなく、一定の条件を満たしたものだけが除籍されるため、リアルタイムで除籍関連文書に反映されるわけではないからだ。
市教委の担当課によれば、具体的には「蔵書点検の結果、4回連続で所在不明となった資料(亡失資料)」だけが除籍候補となる。つまり、原則年1回行われる蔵書点検(棚卸し)を少なくとも4回経ないと除籍はされないため、新館開館から4年以上経過後でないと、なくなった蔵書の冊数は確定しない(19~20年度は蔵書点検は未実施)。毎年、「1回目不明」「2回目不明」という膨大な数のリストが除籍リストとは別に作成されている。なくなった蔵書のタイトルや冊数を知るためには、除籍リストではなく、この不明本リストを調べる必要があることがわかった。
そこで筆者は、和歌山市に対して「蔵書点検の結果、所在が不明となっている本のリスト」の開示申出を行った。不明本とは、蔵書データ(図書原簿)には登録されているのに、所在不明(貸出処理がされていない)になっている本のことで、図書館では盗難されたり貸出したまま返却されていない本などが多数ある。

以下の表は、CCCが和歌山市民図書館の指定管理者になった19年度以降に、館内の蔵書点検等によってみつかった不明本リストに記載された冊数を集計したものである。

まず、運営の初年度である19年度は0冊。つまり不明本リストは作成されていない。2年目の20年度は期末が迫った21年2月に西分館で103冊の不明本がリストに記載された。3年目の21年度になってようやく468冊の不明本リストが作成されているが、同館の全蔵書57万冊(当時)という規模からすれば極端に少ない。そして22年度になると、約2500冊の不明本リストが作成され、大きく増えている。
そこで筆者は市教委の担当課に「不明本が指定管理者制度になってから激増しているのでは?」と質問したところ、以下の回答が寄せられた。
「そんなことはない。不明リストには、蔵書点検の結果、初めて所在不明がみつかった『不明回数0』のものから『不明回数4回』のものも同じようにリストアップされているから多くみえるが、リストには重複しているものも多いので、指定管理制度が始まってから増えたという事実はない」
そこで、指定管理者制度が始まってから不明本は増えていないことを示すデータの提供を、和歌山市教委の担当課に求めたところ、2012年度から2023年度までの11年間のデータが開示された。
不明本リストには、同じ本が何度もリストアップされるため、各年度の増減はわからない。そこで、蔵書点検等の結果、所在不明とされた本のうち、初めて不明がみつかったもの(過去の「不明回数0回」のもの。以下「初不明本」と呼ぶ)だけをピックアップしたのが下記データである。
12年度から22度までの11年間の推移をみていくと、かつては管理体制がよくなったのが次第に改善されたのか、12年には422冊だった初不明本が以後、年々減っていき17年には128冊まで減っている。そしてCCCによる運営が始まった19年度と20年度は蔵書点検が行われず、21年度は初不明本が395冊、22年度は540冊と急増。指定管理が始まる前の18年の3.6倍にもなっているのだ。

なお当初、担当課から出された数字は21年度と22年度の初不明本の数字が蔵書点検の結果のみを反映したもの(点検不明)だったが「蔵書点検以外でみつかっている不明本(強制不明・不明)も開示されたリストには結構ある」と指摘したところ、21年度は74冊、22年度は197冊が蔵書点検外で初不明があらたに判明した。その数字を足した結果が、指定管理前の約3.6倍の540冊(22年度)だったのである。
