公共施設の運営を民間委託したら、飛躍的な効率アップなどの大きな成果が出る――。かつてはそう期待された時代があった。「官民連携の象徴」といわれたカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が指定管理者として運営する、いわゆるツタヤ図書館が佐賀県武雄市に登場してから10年目を迎えた今年。あのツタヤ図書館は、どうなっているのか。

 全国で6番目のツタヤ図書館として、2019年12月からCCCが運営する和歌山市民図書館で起きている事象を客観的データから詳しく分析したところ、館内で所在不明になっている図書が急増し、適正な処理が行われていないのではという疑いが浮上した。武雄市図書館・歴史資料館では、貴重な郷土資料やレンタル店の営業と重なるCDやDVDが大量廃棄されていたが、来館者が3倍となり駅ビルのにぎわいを取り戻したといわれる和歌山市民図書館で、新たな疑惑が持ち上がったのだ。民間委託に隠されたブラックボックスの正体に迫る――。

和歌山市ツタヤ図書館、所在不明本が急増…1度に7千冊を除籍、CCC運営で
(画像=『Business Journal』より 引用)

 筆者は、和歌山市民図書館における19年度から22年度までの4年間の除籍リスト約1000枚(除籍総数約2万1000冊)を独自に入手した。除籍リストとは、内容が古くなったり破損・紛失したため図書原簿から削除して廃棄処分にする蔵書の候補リスト。図書館運営の通常業務のなかでも最も地味な作業のひとつでありながら、適切に運営していくためには、新規購入する図書を決める選書と同じくらい重要といわれる。

 以下グラフは同館での過去4年間における除籍数の推移である。CCCによる運営がスタートしたのは19年12月19日。その前の19年度の市直営時代には約3500冊が除籍されている。回数は13回。これがCCCによる運営になってからどうなったのか。

和歌山市ツタヤ図書館、所在不明本が急増…1度に7千冊を除籍、CCC運営で
(画像=『Business Journal』より 引用)

1年3カ月にもわたって除籍が行われず

 CCCによる運営が始まった19年12月19日から翌年3月31日までの除籍数はゼロ。翌20年度は4月から約1年にわたって除籍は行われず、年度末ギリギリの21年3月31日になってようやく本館の481冊と西分館の10冊の蔵書が除籍になっている。20年度はこの2回のみである。

和歌山市ツタヤ図書館、所在不明本が急増…1度に7千冊を除籍、CCC運営で
(画像=『Business Journal』より 引用)

↓ーーーCCC管理指定ーーー↓

和歌山市ツタヤ図書館、所在不明本が急増…1度に7千冊を除籍、CCC運営で
(画像=『Business Journal』より 引用)

 なぜ1年3カ月にもわたって除籍が行われていなかったのか。筆者が和歌山市教育員会の担当課に問い合わせたところ、「直営時代に多数除籍したので、指定管理が始まった初年度は少なくなっただけだろう」との回答だった。確かに指定管理が始まる直前の19年12月1日から18日の間に5回除籍が行われているが、なぜ翌年に一度も実施されなかったのか疑問が残る。

 この間の経緯を下記に図解してみた。南海電鉄和歌山市駅前に新築移転した同館のCCCによる運営がスタートしたのは前述のとおり19年12月だった。それから1年3カ月間にわたって除籍処理が一度も行われていない空白期間に、いったい何があったのかをみてみると、21年6月に同館はグランドオープンしている。

和歌山市ツタヤ図書館、所在不明本が急増…1度に7千冊を除籍、CCC運営で
(画像=『Business Journal』より 引用)

 つまり、開館準備作業と開館直後の運営を軌道に乗せることに注力していたため、蔵書の除籍まで手が回らなかったということなのだろうか。除籍は入館者数や貸出数とは異なり、運営上の評価対象にはなりにくいため、疎かになりがちな面があるのかもしれない。和歌山市が19年12月にCCCと指定管理契約を交わすにあたって作成した「指定管理者業務仕様書」(運営業務の範囲を明示した契約書の一部)を確認したところ、定期的に除籍を行うことを義務づけた項目は見当たらなかったが、なぜ1年3カ月もの期間、除籍を行わなかったのかという疑問はぬぐえない。1年間に一度も除籍を行わなくても、図書館の運営業務に支障は出ないのだろうか。ある図書館関係者は、こう指摘する。

「図書館の本は、常に一定量は傷むものです。利用者が誤って破損した『弁償』も除籍となりますので、毎年一定量の除籍は必ず発生します。おそらく、CCCでは、それらをまとめておいて、翌年または年度末に一気に処理したのでしょう」

 となると問題なのは、1年間にたまった処理を翌年度以降に持ち越すなどという行為は適切といえるのかということ。この図書館関係者は、こう続ける。

「図書館の本は市民の財産で、除籍するということは市の資産の減少になります。会計的にいって、そのようなことは当該年度に速やかに行わなければなりません。地方自治体は単年度会計をとっていて、予算でも工事でも必ず当該年度に処理しなければならず、やむを得ず翌年に繰り越す場合は決裁が必要となります」

 だが、開示された除籍関連の文書には、そのような手続を取った形跡はみられなかった。除籍がおろそかになった背景には、指定管理者の管理体制に問題があるのではと同関係者は指摘する。

「和歌山市民図書館の直営時代には、除籍の担当者がいて、ほぼ3カ月おきに除籍を行っていたと聞いています。指定管理を請け負ったCCCは、独自分類による配架や各種イベント開催など、華やかな利用者サービスを展開していますが、除籍のように地味であるが図書館資料管理には欠くことのできない業務をおろそかにしていたのではないかという懸念が生じます。職員に聞いてみると、シフトが2時間ごとに変わる体制では、まとまった時間が取れず中途半端だと嘆いていました。管理する側からすれば、表に出る目立つところばかりに気をとられ、業務を持続していく上で基本的な作業を指示し確認ができていないという点では、今問題になっているダイハツの不正問題にも共通するような気がします」