(本記事は、辻盛 英一氏の著書『営業は自分の「特別」を売りなさい』=あさ出版、2018年10月23日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
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仕事とプライベートの手帳は分けない
「お客さま」のとらえ方を変える、いちばん簡単な方法は、「お客さまを大切な友人だと思う」ことです。
お客さまを「仲の良い友達」だと思えば、欲しがっていない商品を勧めることはしませんよね。
また、たとえ必要とされる品物でも、「今月の売上が足りない!」ときに、ムリやりお願いして購入してもらうこともしないでしょう。
「お客さまは友達」と、自然に思えるようになる、ちょっとしたテクニックがあります。
それは、仕事とプライベートの手帳を一緒にすることです。
そして、この予定表には、お客さまや友人だけでなく、家族と共に過ごす予定も書き込んでほしいのです。
なぜなら私は、「最も身近にいる家族を大切にし、思いやることができる人は、ほかの誰に対しても同じように温かな気持ちを向けることができる」と考えているからです。
転職してきたばかりの27歳の新入社員、Nさんと打ち合わせをしていたときのことです。
Nさんの携帯電話に、お客さまから電話がかかってきました。
「○月○日の夜だったら時間がとれるよ」
そんなお客さまの連絡に、手帳を開いたNさん。
「わかりました。その日は家族と晩ごはんだけなので大丈夫です。うかがいます」
そう答えて、アポイントを取りました。
それを見ていた私は、すかさず、
「Nさん、それじゃ一生、営業成績は上がらんぞ」
と声をかけました。
「え、辻盛さん、なんでですか? プライベートの約束と仕事のお客さまだったら、仕事のほうが大事じゃないですか⁉」
Nさんはとても驚いていました。
多くの営業マンは、Nさんの言うことが正しいと思うでしょう。
お客さまを優先すれば、お客さまに選んでもらえると考えます。
でも、この行動は、「お金のために、先に入れていた約束を変更している」ことにほかならないのです。
お客さまにしてみれば、そのときは「自分を重視してくれた」と思うかもしれません。しかし、「売上のための行動だ」ということも、同時に必ず伝わります。そして、「商品を買ったら、自分は価値がなくなる」とも感じさせてしまうのです。
もし私だったら、こんな場合、「家族と約束があるので、よければほかの日にしてもらえませんか」と、お客さまに聞いてみます。
相手が誰であっても、先に入っている予定をきちんと優先させるのです。
そして、もしお客さまが、「どうしても、その日じゃなければ予定が立たない」というのであれば、そのとき初めて、先に約束している人に日程を変えられるか確認します。
プライベートと仕事を1つの手帳に書き込み、相手が誰であれ、先に入った予定を優先する。
こうすることで「お客さま=お金」という考えを、少しずつ変えていくことができるのです。
10秒で価値を伝えられればお客さまの心に響く
「ステージ(1)パワーセールス」から次の段階の「ステージ(2)行動力セールス」に上がるために必要なことがあります。
「商品についての特徴を見直す」ことをしたら、自分が扱う商品やサービスの特徴を書き出し、さらにその特徴を「お客さまから見た“得すること”」に転換してみてください。
つまり、あなたが紹介したい商品やサービスの特徴、つまり「特別」が、お客さまにとっての「特別」にならないか考えてみるのです。
人がものを買うプロセスにおいて、妨げとなる要因に、次の「4つの“不”」があります。
(1) 不信(信頼できない)
(2) 不要(必要ない)
(3) 不適(自分にはあわない)
(4) 不急(今はいらない)
このうちの、最大の障壁である(1)「不信(感)」を取り除き、お客さまに話を聞いてもらうのが、あなたが持つ「特別」でした。
それに対し、(2)「不要」(3)「不適」(4)「不急」を除くために役立つのが、商品やサービスの持つ特徴、すなわち「特別」です。
たとえ1本の鉛筆でも、その特徴をお客さまの「特別」に変えることは可能です。
消しゴム付き鉛筆の特徴 → お客さまにとっての「特別」
- 芯のまわりを木で覆っている → いつでも削って芯を書きやすく尖とがらせることができる
- 消しゴムが付いている → 間違えたとき、その場ですぐ消してやり直せる
- 消しゴムは金属で取り付けられているので、転がってなくなることがない
鉛筆の外側が黄色く色付けられている → 机の上に置いていてすぐ目につく
こうした多くの「特別」のなかから、そのお客さまにとってどれがいちばん役立つかを考え、伝えていくことが購買につながるのです。
1つ例を紹介しましょう。
オンラインゲームが大好きで、その世界では「神」と呼ばれるほど、実力があるYさんという保険営業マンがいます。
Yさんは、「ゲームのオフ会」と称して、同じ趣味の仲間としょっちゅう飲み会を行っていました。
あるとき、Yさんの仕事に興味を持った1人の男性に、保険の説明をすることになった彼は、次の通り保険の「特別」を説明しました。
「保険って、掛け金を損しているイメージがありますよね」
「でも、僕らが扱っている商品はすべて掛け金が全額戻ってくるんです」
「そのうえで、しっかり保障もついているんですよ」話を聞いた男性は、常々「毎月3万円も払っている保険料がもったいない」と感じていたので、とても興味を持ち、Yさんから保険を購入することになったのです。
Yさんは、そうして自分の「特別」に、お客さまにとっての「特別」をプラスすることで、日本でもトップクラスの成績を上げることに成功しました。Yさんが説明したのは保険の機能の貯蓄という部分でした。
保険にはもちろん掛け捨てのタイプの商品もあります。ただし、Yさんは、このお客さまが得だと感じるのは保険の機能のうち、どの部分かを考え、貯蓄は損しない、つまりお得だと考えたわけです。そこで、「つかみ」のトークで「全額戻ってきますよ」と説明し、保険を「特別」にしたというわけです。
堂々と「営業の話です」と言ってみる
「ステージ(1)パワーセールス」から「ステージ(2)行動力セールス」に段階を上げる練習として、「必要とされるところで売る」方法があります。
それには、アポイントを取ったときから「営業の話です」と相手に伝えることが必要です。
もちろん、やみくもに「営業です」と言ったのでは、相手に断わられてしまいます。
そこで、まずは自分の扱う商品の価値を見出し、特定のターゲットを絞ってから、営業をするのです。
たとえば、こんな具合です。
「30代で結婚している働く女性に、家事の手間を省く商品があります」
「工場の電気代を少しでも節約したいと考える方にオススメしたい設備です」など。
最初からそんなふうに絞り込めば、興味がない人はすぐ断ってきます。
「必要ない」と言われたら、あっさり引き下がればいいのです。
絶対、やってはいけないのが、「すごい人がいるんだけど紹介します」とか、「面白いイベントがあるんですよ」などと、目的を隠してアポイントを取ろうとすることです。
私のところにも、以前にものを購入した会社から「今週末、スペシャルグッズを差し上げるイベントを開催します」などといった案内がくることがあります。
話を聞いてもらうきっかけをつくろうとしているのでしょうが、誘われた人は、営業の話だとわかったとたんに「だまされた!」と感じ、マイナスのイメージを抱きます。
よほど強い「鉄のメンタル」を持っている人であれば、イベントに行ってグッズだけもらって帰ってくることもできるでしょう。でも、多くの人は「グッズをもらったら、話くらい聞かないと悪いな」と考え、説明を受けます。
もしこのとき押し切られて契約してしまうと、「買わされた」という印象が刻み込まれ、次からは2度とイベントに行かず、商品の購入も控えるかもしれません。
それどころか、まわりの人にも「あそこには行かないほうがいいよ」「あそこの商品は買わないほうがいいよ」と、口コミしかねません。
一度でもだまされた相手を人はそう簡単に信用しません。
そうならないために、「パワーセールス」から「行動力セールス」の間はお客さまに「こんな『特別』を持った商品があるので営業させてください」と爽やかに言ってしまうことが大切です。
グッズやイベントで集客するくらいなら、その日は営業せず、「次回は、営業の話を聞いてください」とアポイントを取り直すほうがいいでしょう。
商談は「モデルとコンパ」と同じ心意気で
「パワーセールス」のステージにいる営業マンは、「売りたい」「買ってほしい」という気持ちが前面に出がちです。
思いが先走ってしまうと、お客さまが引いてしまいます。そうならないために、ちょっとしたテクニックをお教えしましょう。
それは「お客さまと会うときは、モデルさんとのコンパだと思って行く」ということです。
男性であれば女性のモデル、女性であれば男性アイドルなどを想定するといいのではないでしょうか。
これは冗談ではありません。
ちょっと考えてみてください。
もし、あなたが「全員モデルの飲み会」に誘われたら、どう思いますか?
単純にうれしいですよね。
「会えるだけでラッキー」と思うのではないでしょうか。
お客さまに対しても、同じように「会ってくれるだけでありがたい」「時間を使ってくれることに感謝」と思って会いに行くのです。
これは営業に行く際に、モチベーションを上げるための話ではありません。
あなたはモデルとのコンパに行って、「よし、1人を彼女にしよう」とか、「絶対に、誰かと付き合おう」などと思うでしょうか?
「あわよくば」という気持ちはあるかもしれませんが、そんなにガツガツしていたら、嫌われることくらいわかるはずです。
それなのに、お客さまに対しては「買ってほしい」と意気込んでしまう。ガツガツする気持ちが見え見えでは、お客さまだって引いてしまいます。
お客さまには、会ってもらえるだけで感謝する。
そして、せっかく会ってくれているのだから、「何か喜んでもらえることはないか?」と考える。
それができるようになると、パワーセールスのステージをすんなり抜け出せるようになるのです。
辻盛英一(つじもり・えいいち)
大阪市立大学経済学部卒業、三井住友銀行を経てアリコジャパンに入社(現メットライフ生命保険)。13年連続、トップの成績を収める。その手腕が注目され、社内外から、営業手法を学びたいと人々が訪ねてくるように。現在は法人専門の保険代理店、株式会社ライフメトリクスを経営する傍ら営業マン向けの研修を主催。年間300日はグラウンドで学生を指導していることから、ワークライフバランスの重要性を自ら体現している。
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