(本記事は、辻盛 英一氏の著書『営業は自分の「特別」を売りなさい』=あさ出版、2018年10月23日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

「自分が好きなこと」は誰かの好きなこと

トップ営業になる人は、自分が持つ「特別」を使い、お客さまに共感や感動を与えています。それが、営業成績という数字になって戻ってきています。

そう言うと、トップ営業になる人は「特別な才能を持っている」ように聞こえるかもしれません。

しかし私が言う「特別」とは、生まれ持った才能や努力して磨き上げた能力のことではありません。「特別」とは、「あなたにとって特別な存在」であること。つまり、「あなたの好きなこと」「興味があること」にほかなりません。

「本当にそれでいいの?」と疑問に思うでしょうか。

研修で「特別」のお話をすると、多くの人が不安そうな眼差しでこちらを見ます。

「そんなことで、本当に営業成績が上がるの?」
「『自分の好きなこと』が、はたして営業成績を上げることに結びつくのだろうか?」

稼ぐことが大変だと身にしみて感じている人ほど、そう感じるようです。

仕事はつらいものであると認識しているために、無意識のうちに「好きなこと」や「興味のあること」と「お金を稼ぐこと」を正反対のところに位置づけているのです。

まずはそんな固定観念を打ち壊さなければいけません。

あなたの「特別」を探してみましょう。

誰にでも「好きなこと」「興味のあること」があるはずです。

「それをやる」と考えると、楽しい気分になる。

時間を忘れて打ち込めるようなもの。

自分にとって「特別な存在」です。

みなさんにも思い浮かぶものがあるのではないでしょうか。

営業マン向けの研修でも最初に「好きなことはないですか?」と尋ねます。

すると、ほとんどの人が「え、特にありません……」「わかりません」と、申し訳なさそうに答えます。

「仕事に関係なさそうなことでもかまいません」とお伝えしても、「営業という仕事に役立つような『好きなこと』、スキルになりそうなことはない」と答えが一向に出てきません。

単なる趣味で、お金を稼ぐという目的に対しては有効な手段ではない、と。

それでもかまいません。「テニス」でも「料理」でも、「寝ること」だっていいでしょう。

なぜなら、あなたが好きなことは誰かも「好き」であり、あなたにとって特別に感じられること、特別な存在であることは、誰かにとっても「特別」だからです。

営業は商品を売ることよりもまず、お客さまの信頼を得ることから始まります。

あなたの「特別」を露出することによって、必ず共感が得られ、そこから信頼を得
ることができるようになります。

(※本書にはあなたの「特別」を見つけるのに役立つチェックリストが掲載されています。)

営業には「特別な才能や技術」は必要ない

「私はサッカーが好きなのですが、かといって、プロになれるほどうまいわけじゃないから『特別』とは違う気がします」

「絵を描くのが好きだけど、趣味でスケッチしている程度だから『特別』なんて言えないですよね」

「私はピアノを弾くのが得意だけど、人に聴かせるのは恥ずかしいレベルです。どう判断すればよいですか?」

研修で「好きなこと」を探す作業をする際に、よく質問されることです。

「特別」とは、別に誰よりも秀でた能力や技術である必要はありません。

もちろん、技術が伴うにこしたことはないでしょう。でも、才能や技術は“どの程度”だって、かまいません。

むしろ、どれくらい「好き」かという「度合い」が、営業で成果を上げるには重要です。

たとえば休日をほとんど費やすくらい、サッカーをするのが好き。技術的にはたいしたことがなかったとしても、サッカーの話をするときは楽しくて仕方がない……ならば、十分に「特別」なもの。

「好き」であれば、誰に強制されなくても、自ら進んで「やりたい」と思うでしょう。

また、繰り返し行うことは苦痛でもなんでもなく、むしろ楽しいはずです。

さらに、歴史や背景などにも興味を持ち、しかたなく勉強していた学生時代とは違い、知識が増えることでさらに「好き」が深まるでしょう。

「好きの度合い」が高くなればなるほど、実は「特別」な域に達します。

だからこそ、技術や才能ではなく、心から好きなことが大切なのです。

心から好きで、純粋に楽しめること。

それが「特別」を見つけるための重要なカギになります。

「特別」の最大の役割は「不信感」を取り除くこと

「特別」を使うと、なぜトップ営業マンになれるのでしょうか。

人がものを買うプロセスにおいて、障害となる要因に、次の「4つの“不”」があります。

(1) 不信(信頼できない)
(2) 不要(必要ない)
(3) 不適(自分にはあわない)
(4) 不急(今はいらない)
なかでも最大の壁が、最初に立ちはだかる(1)「不信」です。

営業がスムーズにいかない原因の7割以上は「不信」が原因と言っていいでしょう。

人には、他者の攻撃から自分を守る本能があります。そのため、ちょっとでも“敵”だと思ったら警戒し、なかなか気を許すことはありません。

つまり、営業マンとしてはそんなつもりはなかったとしても、お客さまが「売りつけられるんじゃないか」「カモにされているんじゃないか」と感じたら、営業マンを「自分が望まないことをする人」だと認識し、不信感を抱きます。すると、どんなにいい商品であっても、営業マンの言うことに対し、お客さまが納得することはないのです。

では、「不信」を打開するにはどうすればいいか?

答えは「好きなもの」の話をすること。

お客さまの警戒心を解くには、「特別」が大きなきっかけとなるのです。

私は以前、大好きな「車」と「時計」の話をしただけで、ある企業の社長さんに、1人1000万円の保険契約を、役員4人分していただいたことがあります。

その社長さんはとても気難しく、どんな営業が行ってもほぼ門前払い。会えたとしても5分で、「帰れ」と言われてしまう人がほとんどだということは、会う前に聞いていました。

「5分じゃ、商談はとてもムリだな」と判断した私は、保険の説明は一切しないと決めて、社長のいる部屋に入るとすぐ、オフィスの入り口で目にとまった珍しい車について尋ねました。

「1階にとまっていたのは、トヨタとアストンマーチンのコラボですよね」

すると社長さんは、「よくわかったな!」と、うれしそうにニヤリと笑い、車の話を楽しげに始めました。5分経っても一向に話は止まらず、結局1時間も続きました。

長居しすぎるのもいけないのでさすがに帰ろうとすると、「ところで君は、何をしに来たんだっけ⁉」と社長。

「実は保険の話だったのですが、営業がたくさん来ていると聞いていますので、また改めて来るようにします」

と私が答えると、「だったら来週、提案を持ってこい」と言います。

そこで翌週、提案書を持って会社を訪ねると、今度は別の、まだ試作品しかつくられていないはずの電気自動車が建物の前にとまっていました。

私は、興奮を抑えきれずに、部屋に入るなり「社長、何ですか、あの車!」と切り出しました。社長はうれしそうに「試しに乗ってみてくれと言われたんだよ」と先週以上にいい笑顔です。

そこからまた、車の話が始まり、なんとなく社長がその日つけていた時計の話に。その日もあっという間に1時間が経過しました。

「結局、提案は難しかったな」と思いながら帰る準備をしていると、「提案、見せて」と社長。

あわててお渡しすると、その場でチェックし、役員全員分、サインをしてくれたのです。

一度も商品の説明をしていないのに、です。

「好きな話」をしただけで私のことを信頼してくれた。自分の大事なことをわかってくれる私が持ってきた商品なら大丈夫だろう、というのが社長の判断の決め手でした。

ちょっとの工夫でこんな大きな成果が手に入ることも、営業にはあるのです。
 

(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

辻盛英一(つじもり・えいいち)
大阪市立大学経済学部卒業、三井住友銀行を経てアリコジャパンに入社(現メットライフ生命保険)。13年連続、トップの成績を収める。その手腕が注目され、社内外から、営業手法を学びたいと人々が訪ねてくるように。現在は法人専門の保険代理店、株式会社ライフメトリクスを経営する傍ら営業マン向けの研修を主催。年間300日はグラウンドで学生を指導していることから、ワークライフバランスの重要性を自ら体現している。
 

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