消費者が拒絶するかぎりAI専制はない
AIに対する反応を企業対消費者という視点で見ると、みごとにわかれています。
企業は市場経済の及ばない統制経済の世界です。何か仕事をして欲しいと思うたびに「この仕事を、何時間のうちにいくらで片付けてくれますか?」と競売にかけていたのでは、あまりにも交渉時間のロスが大きくなります。
そこで「あなたの労働力を時間決めでまとめ買いしますから、労働時間内は上司の命令どおり動いてください」というわけです。
参入・退出の自由がない窮屈な世界ですから、組織として円滑に運営するためにAIの助けを借りるというのは自然な発想だと思います。
ですが、労働時間外の消費者として振る舞っているときまでAIによる統制を押しつけられるのは、御免こうむりたいところです。
企業としてはなんとか消費者も従順に統制に服する存在にしてしまおうといろいろな手を使って、統制経済の領域を拡大しようとします。
上の円グラフの右下に出ている自動車の自動運転化も、そうした巧妙な手段のひとつだと思います。たぶん、消費者側もそれを本能的に察知しているので、自動運転の危険性をかなり大きく意識しているのでしょう。
そのへんでは、おそらく企業の思惑どおりに統制経済化を推進することはむずかしいでしょう。
ただ、最近の傾向としてAIの実用化を推進している立場の人たちの中から「AIが人類絶滅を企てる危険があるから、開発を一時停止すべきだ」とか「AIは汎用化すると核戦争を起こす危険がある」といった恐怖心をあおりながら消費者の味方を装う人たちも出てきました。
庶民の感じているAIへの不安と「良識あるAI開発者」が大上段に振りかざす恐怖感の違いを次のグラフでお確かめください。
この人たちは、本心から「AIにはこんなに大きな危険があるよ」と警告してくれているのでしょうか。残念ながらそうではないでしょう。
次回は後編として、彼ら「AI恐怖論者」の真意はどこにあるのか、AIと密接な関連のあるロボット開発の問題点、そして株式市場におけるAI関連銘柄の位置づけについて書きます。お楽しみに。
アメリカの銀行業界は、市場経済と統制経済の主戦場だった 後編 アメリカの銀行業界は、市場経済と統制経済の主戦場だった 前編 第二次世界大戦とともにアメリカの市場経済は終わっていた 後編 第二次世界大戦とともにアメリカの市場経済は終わっていた 前編 商業不動産物件の連鎖破綻でアメリカ中の大都市が廃墟に?
■
増田先生の新刊「人類9割削減計画」が発売中です。ぜひご覧ください。
編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2023年5月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。