かけ声はでかいが実績はしょぼいAI投資

それにしても、いったいAI投資はどの程度企業収益の改善に貢献しているのでしょうか。

まず驚くのは、AIを採用してもまったくコスト節減効果がなかったという企業が全体の3分の2を超えていることです。

さらに、節減効果があった企業の6~7割は10%未満のコスト削減にとどまっています。20%以上コストを削減できたと言っているのは「サービス実務」と「製品・サービスの開発」に使った企業のうちで6%、それ以外の事業領域や機能では5%以内に過ぎないのです。

売上拡大のほうでは、3分の2近くが「とにかく売上を拡大できた」と言っていますが、こちらは大部分が5%以下の増収にとどまっています。

全体として目を見張るようなコスト削減も増収も、AIの導入で達成することはむずかしそうです。

よくまあこんなすさまじいエネルギー浪費の実態をぶちまけてしまうなと感心するのが、次の2枚組グラフの上段です。

私自身は二酸化炭素の排出量が増えると、植物の生育を促進するのでむしろ歓迎すべき事態だと思っています。ただCO2何トンと測ろうと、石油何バレルと測ろうとエネルギーを浪費するのは、言語道断です。

そして、マシンラーニングモデルの中では画期的にエネルギー消費量が少ないと言われるBLOOMでさえ、人類一般より3倍以上多くのエネルギーを使って生きているアメリカ人1年分の消費量より大量のエネルギーを必要とするのですから、立派に言語道断の部類です。

もうひとつ笑ってしまうのが「AI制御によって住民が快適と思える温度を保つのに必要なコストを丸3ヵ月間で12.7%節減できた」という下段のグラフです。

「徐々に蓄積したデータによるラーニングカーブ効果で空調コストを下げられた」と称しているのですが、これって真夏から晩秋になって冷房をガンガンかけなくても済むようになったというだけのことではないでしょうか。

そこまでひどい「模範例」ではなかったとしても、アメリカ製のエアコンを日本製に変えたり、家の気密性・断熱性を高めたりするだけで、もっと早くもっと大幅なコスト節減ができることは間違いないでしょう。

AIモデルを運用することのすさまじいエネルギー消費量を考えれば、なおさらです。

日本国民のAI観はすばらしい

次にご覧いただくのが、先ほどちょっと触れたAI一般に対する理解度、信頼度、不安感をまとめた表です。

赤い枠で囲ったのが、この調査に参加した28ヵ国の中で日本国民の「イエス」回答率がいちばん低かった項目です。

最初の項目が既に驚きです。国民の6~7割が「AIとはどんなものか、よくわかっている」とおっしゃっている国もあります。私には、未だにどこまでがふつうのコンピューターでもやってのける推論機能で、どこからがAIなのかさえわかりません。

「AIは人間同様ものを考えることができる。今はまだできなくても、いずれそこまで進歩する。そうなったら、しょせん機械でしかないコンピューターと機械を超越したAIの違いもはっきりする」という未来予測のような話なのでしょうか。

私は、未来永劫にわたって「AIが人間のようにものを考える」機能を持つことはあり得ないと確信しています。

エネルギー消費量に糸目をつけなければ「ルールが有限個しかなくて、そのルールは全競技者に周知徹底されていて、改訂も必ず知らせてくれる」という囲碁や将棋やチェスの世界では、AIでもスーパーコンピューターでも人間界のナンバーワンより強いでしょう。

しかし、突然自分が知らなかったルールに出くわすこともあれば、自分がルールだと信じていたものになんの拘束力もなかったと気づかされることもあり、場所によって同じルールの持つ意味がまったく違っていたりする現実社会では、AIは判断停止状態になるでしょう。

日本国民の4割が「AIとはどんなものか、よくわかっている」と答えていることでさえ比率として高すぎる気がします。

もっと不思議なのが「製品やサービスがAIを使っているか、いないかがわかる」という主張です。料理を食べて化学調味料を使っているかいないかは、おぼろげながら見当がつきます。また製品なら、どこかに「AI使用」の刻印でも押してあるのかとも思います。

しかし、実際に接客してくれるのはなま身の人間が多いサービスの場合、不細工なロボット配膳係でも出てこなければAIを使っているかどうか、どうすればわかるのでしょうか。多くのファストフード店では、ごく自然にマニュアルどおりの接客をやってのけます。

さらに謎なのは、AIの使用・不使用がわかるとどんな利点があるのかという点です。あるいはこの質問自体にどんな意味があるのかもわからない。

とにかく「AIとはわからないことだらけの概念だ」といちばんはっきり認識している日本国民が、じつは「AIを使った製品やサービスは私を不安にする」という質問へのイエス回答率はいちばん低いのです。

「AIとはどんなものか知っている」という回答と「AIを使っている企業を他企業同様信頼する」という回答にはプラスの相関性があるようです。それを図示したのが次のグラフです。

これはある意味でとても論理的な整合性のある話だと思います。

「AIとはどんなものかよく知っていて、AI利用企業を信頼する」とおっしゃる人たちの多い国は、これまで不利な立場に立たされてきた国々で、AIが人間を超えた能力によって人類を平等化してくれると期待しているのではないでしょうか。

逆に「AIはどんなものかわからないし、AIを使用している企業は信頼できない」とおっしゃる人の多い国は、先進国と呼ばれるこれまで有利な立場にあった国々が多いようです。

今までの立場が有利だっただけに、得体の知れないものによる検閲や制約を課されることに不安を感じているのでしょう。その中で日本国民は「AIのことはよくわからないけれども、あまり不安も感じていない」わけです。

「どんなに大げさな道具立てでも、しょせん人間が使うものだし、道具立てが大きければ使えるのは権力を持った連中だけだろう。よその国では大きな不安材料だが、日本では支配階級の人間は我々と同程度か、我々より低い知的能力しか持ち合わせていない。だから、だいそれたことができるはずがない」と達観しているのでしょう。