2022年のアメリカ株市場が、ときどき小反騰はあっても結局は下落基調から抜け出せなかった理由は2つあると思います。
ひとつは、2021年の意欲的なAI経営のとがめが出て、米株市場全体の大黒柱となっているハイテク大手の収益成長率がかなり鈍化したことです。
もうひとつは、金融業界が今まで以上に積極的にAIに開発させたサービスを提供するようになり、収益性が低下したことです。
今年は1~2月こそ順調に回復しそうに見えましたが、3月から銀行危機が本格化したので、それでなくても収益基盤を安定性の高い融資から投資に変えてしまった大手銀行を始めとして、金融業界はそうとう大きな打撃を受けるでしょう。
金融危機のタネは、2021年のAI投資激増によって蒔かれていたのです。
消費者がAIに見る夢は実現しない「先端技術」とはやされながらも、遅々とした歩みでしか進んでいないAIに、消費者はどんな期待を持っているのでしょうか。
複数回答の許されたアンケート調査で見るかぎり、消費者の期待がもっとも強いのは教育、あるいは新しいことを学ぶ手段として、AIが画期的に勉学の効率を上げてくれることのようです。
たしかに、たとえば語学教育などではネイティブの発音をしてくれるAIに教えてもらえば、何度同じ間違いをしても、怒りもうんざりもせず懇切丁寧に直し続けてくれそうです。何年かかってもちっとも身につかなかった外国語が今までよりずっと速く覚えられる?
ですが、それは幻想でしょう。まず、英語というたったひとつの外国語を学ぶために膨大なカネと時間をかけつづけている日本人が、在来の語学学習法に比べて顕著な改善にはならないだろうと見ています。
あとで、AI全般に対する評価を比較する表でも説明させていただきますが、日本国民はAIに対して過度の期待も持たず、過度の懸念も抱かずじつに淡々と大した変化をもたらすことはないだろうと達観しています。
その日本国民が、この調査に参加した28ヵ国の国民の中でいちばん期待値が低いのです。わずか12%だけしか画期的な変化を予測していないのですから、実際にそんなものに終わる可能性が非常に高いと思います。
もっとはるかに計量的な信頼感のあるデータも、同じ方向を示しています。
この8枚のグラフのうち、上段は「いかにも画期的な変化を起こしそうだ」という印象のある分野なので投資がどっと殺到する、でも実績がついてこないのでさっと逃げていくといった派手な上下動をくり返す分野です。
その中でも、教育テクノロジーは2020年には全分野の中でおそらく最高額の70億ドル台の投資を集めていました。
ところが、他の分野より1年早く2021年に急落したあと、2022年にも下げつづけ、ピークの約20分の1に下がっています。これはもう、AI投資家の大多数がどうにもならないと見切りを付けたと考えていいでしょう。
下段の4枚のうち左から3枚は、あまり意外性はないけれども使えばそれなりに効果はありそうな分野で、着実に上昇基調を維持しています。
右下のベンチャー・キャピタルは、投資家を呼び集めるために「最新のAIモデルを使って投資対象を決めています」とか宣伝しそうな雰囲気がありますが、意外に正直な連中で自分たちがやっているのは丁半賭博と割り切って、AIには見向きもしないようです。