補論
地方銀行の衰退を示すわかり易い事象がある。
クレディスイスの経営難を吸収合併で救い、マスコミの注目をあびたUBS(ユニオン・バンク・スイス)グループが、2011年6月30日ある投資信託をスタートさせた。日本の地方銀行をセレクトして投資するファンドだ。
「当ファンドは、主として日本の地方銀行の中でも流動性の高い銘柄を投資対象とし、割安度などを考慮した独自の定量分析を活用して個別銘柄への投資比率を決定しました。」(当ファンドの交付償還運用報告書)。
割安度とはPBRを意識してのことだ。
このファンドの基準価格の動きは図1に示した。そして、2021年6月21日、定款に基づいて解散された。

図1 UBS地方銀行株ファンド基準価格等の推移出典:USBアセットマネジメント株式会社
発足は1万ポイント⇒解散時は5,355ポイントであるから、半値近い、それでも報告書は分配金再投資で計算すれば(分配金総額は設定以来6,500円)、1万ポイントはクリアーしたという実績を強調している。しかし、これはやや強弁だろう。5,300+6,500-10,000=1,800が10年分の利子であると考えれば、複利で1%程度にしかならないからだ。
ここで見ておきたいのは、株価に示された地方銀行の不振だ。2013~2019年の安倍第二次政権下では株価は全体としてはかなり上昇したが、地銀株は逆に大きく下げ、まさに不毛の10年だった。UBSは地方創生という大きな運動に乗ってくれること、またPBRの低下を経営者がなんとかすると期待したのだが、結果は完全な失敗だった。
(次回につづく)
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注1)この言葉は、マルクスの『経済学批判要綱』を研究した日本の学者によって見い出された。
注2)商業手形の流通、裏書きについては前掲書『金融の原理』の第1章、第2章に詳しく書いた。
注3)ミヒャエル・エンデが『モモ』も登場させる「灰色の男たち」。彼らは私達から時間を盗んでいく時間ドロボー。ましこ・ひでのり『加速化依存症』、三元社、2014年を参照。
【参考文献】
斉藤一郎「銀行ビジネスモデルのフレームワーク」、『商学討究』(小樽商科大学)、67、2016年12月
※ 本稿は以下の論文を要約し、書き直している。
濱田康行「地方創生と金融」、『政経研究』(公益財団法人政治経済研究所)、第111号、2018年12月 濱田康行「現代日本における金融の衰退」、『経済学研究』(北海道大学)、69-2、2020年1月