iDeCoは所得税や住民税の節税にもなりお得な制度だが、運用資産で損失が出る可能性もある。含み損を抱えると売却してしまう人もいるが、iDeCoの運用方法をよく理解してから行動したほうがいい。実際に損になったときにどのように対処すればいいのか考えてみよう。

目次
1.iDeCoを始めるなら損することも念頭に置く
2.iDeCoで損をしやすいのは上昇後の下落パターン
3.iDeCoで損切りしてはいけない2つの理由
4.iDeCoは損失が出ていても積立を続けることに意味がある
5.iDeCoの受取時に損をしていたらどうする?2つの対処法
6.iDeCoでの投資は損をしたときにどうすべきか想定しておく

1.iDeCo(イデコ)を始めるなら損することも念頭に置く

iDeCoのメリットは所得控除による節税や運用益が非課税になることだ。しかし価格変動商品である投資信託で運用するときは損をする可能性があることを忘れてはいけない。

iDeCoで損を抱えやすいのは、○○ショックと言われるような株式市場が暴落するときが挙げられる。過去のデータから長期投資で損をしにくくなることはわかっているが、暴落時は短期間で値動きが激しくなり、想定以上のマイナスが出ることもある。そのような状況では、思わず売却してしまう人もいるだろう。

iDeCoでは損を抱えたときに売却するのは非常にもったいない。損は必ずあると考え、どんなときに損をしやすいのか、どのように損と付き合っていくべきかを見ていこう。

2.iDeCo(イデコ)で損をしやすいのは上昇後の下落パターン

投資で利益を得る鉄則は「安い時に買って、高い時に売る」ことだ。しかし市場がどのように動くかは正確に予想できず、買いどきと売りどきのタイミングを当てることは困難である。だからこそ投資時期を分散させて購入単価を平均化する積立投資なら、初心者でも簡単に実践できる。

購入単価の平均化は、「高いときには少ない量を買い、安いときには多くの量を買う」ことを意味する。ここでの「量」とは投資信託の数量を表す「口数」を指しており、口数の購入量は評価額に関係する。仮に毎月1万円の積立投資をする場合、口数が評価額にどれだけ影響するのか3つの価格変動パターンで比較してみよう。

<価格変動のパターン>

  • パターン1……1万円→2万円→1万円
  • パターン2……1万円→1万円→1万円
  • パターン3……1万円→5,000円→1万円
パターン1 パターン2 パターン3
1回目の購入口数 1万口 1万口 1万口
2回目の購入口数 5,000口 1万口 2万口
3回目の購入口数 1万口 1万口 1万口
口数合計 2万5,000口 3万口 4万口
評価額 2万5,000円 3万円 4万円
投資額合計 3万円 3万円 3万円
損益 5,000円の損失 損益なし 1万円の利益
(筆者作成)

 

3つのパターンは、途中で値上がりした場合、変わらなかった場合、値下がりした場合である。投資資金は同額で最終的にはどれも同じ価格になっているが、途中の値動きが違うため、購入口数も異なり評価額に違いが表れた。投資信託の評価額は以下で計算する。

投資信託の評価額=基準価額×口数÷1万口

口数を最も多く買い付けできたのは途中で値下がりしたパターン3であり、同じ1万円でも安いときにたくさん購入できたことが利益につながっている。一方、パターン1は値上がりしたときに1万円あたりの購入口数が少なくなってしまうため、評価額も低くなり損失が出た。

このことから積立投資は下落を経験したほうが運用資金を増やしやすいので、基準価額が下落しても心配しなくてよい。逆に上昇が続くと心理的には余裕を持ちやすいが、上昇中は購入口数が減っていくことで後々下落したときに損失を抱える可能性がある。

3.iDeCo(イデコ)で損切りしてはいけない2つの理由

損失になると損切りを考える人もいる。損切りとは、含み損のある金融商品を見切り売りして損失を確定させることで、個別株式やFX(為替取引)の基本テクニックとして重要だ。だがiDeCoで損切りはうまくいかないためおすすめできない。

損切りしてはいけない理由1……タイミングを図って売買できない

iDeCoで元本確保型ではなく価格変動型の商品を運用したい場合は、投資信託を購入する必要がある。投資信託は現物株式やFXのようにリアルタイムで価格変動するものではなく、基準価額は1日1回のみ変わる。これは投資信託に組み入れられている株式や債券などの価格を基準価額に反映するためである。売買を発注してもすぐには取引成立にはならず、翌日以降に成立する。

投資信託は取引にタイムラグが生じるため、タイミングを図って売買することには向いていない。相場が大きく変動する環境では、思いもよらない基準価額で取引が成立することもある。そもそも投資信託に組み入れられている資産は運用会社が投資している。そのため投資信託そのものを売買するよりも、長期的に資金を預けてもよいと思える会社の銘柄を選んで保有しよう。

損切りしてはいけない理由2……60歳まで引き出せない

iDeCoの資金を引き出せるのは60歳以降に限られる。損切りしても別の銘柄で保有する必要があり、必然的に長期投資になるのだ。預金などの元本確保型に移すことも可能だが、損切りして切り替えると運用資金が回復する機会も放棄してしまう。さらに投資信託以外では運用益の税金が免除されるメリットも活かせないため、長期投資のスタンスで運用を継続するほうがいいだろう。

長期投資をすれば、株式のような価格変動の大きな資産でもリターンが安定することが過去のデータからわかっている。投資信託協会によると、1年間のみ日本株式に投資した場合は、最高と最低の収益率の開きが96.9%だったのに対し、20年間の投資では16.1%、30年間の投資では6.0%だった。長期に投資すればするほど、収益率の差が縮まる。iDeCoは60歳まで引き出せず長期投資が前提になることからも、むやみに損切りせず運用を継続したい。

4.iDeCo(イデコ)は損失を出していても積立を続けることに意味がある

上述した2つの理由の通り、iDeCoの投資では損になっても売却しないほうがよい。むしろ積立投資は継続することに意味があり、過去の大きな経済ショックでもその効果が確認されている。

仮に平成バブル崩壊直前から日経平均株価に毎月1万円ずつ積立投資をしていたら、運用成果はどうなったのか確認してみよう。

積立投資の期間は1989年12月末から2019年11月末までとし、合計投資元本は359万円である。比較のために一括投資の運用成果も確認してみると、結果は以下になった。

1989年12月末から2019年11月末までの運用成果比較
項目 積立投資 一括投資
投資元本 359万円 359万円
合計購入口数 247万口 92万口
平均購入単価 1万4,517円 3万8,915円
評価額 579万円 216万円
損益 220万円の収益 143万円の損失
収益率 プラス161.3% マイナス60.2%
(楽天証券のホームページより筆者作成)

 

日経平均株価は平成バブル時の最高値にまだまだ届いていないため、30年以上経った今でも一括投資の場合は含み損を抱えたままだ。それに対して、積立投資は約161.3%の収益率にもなっている。これは先ほど解説した通り、高値づかみになった一括投資よりも安値で買い続けた積立投資のほうが口数を多く購入できたためだ。その結果、平均購入単価も下がり利益の出やすい状態になったのだ。

こうした積立投資の効果は平成バブル崩壊に限ったことではなく、ITバブル崩壊やリーマンショックのときにシミュレーションをしても同じような結果になる。いずれにも共通しているのは、損失が出ている間も積立を継続していたことだ。iDeCoでは銘柄の切り替えも可能だが、積立を続けることに意味があるのだ。

5.iDeCo(イデコ)の受取時に損をしていたらどうする?

iDeCoでの投資は積立によってリスクを下げられるが、受取時にたまたま市場が暴落し損になる可能性もある。そのような事態に対応するためにはどうすればいいのだろうか。2つの方法と損失を回避するための方法を解説しよう。

方法1……そのまま運用を続けて回復を待つ

予期しない暴落に直面すると、特に株式を投資対象にする投資信託は大きく値下がりし損を抱えるかもしれない。そのときに運用資産を一時金として受け取ると資産が大きく目減りしてしまうため、受取開始時期を先延ばしにするのが賢明だ。iDeCoの積立は60歳までだが、資金を追加せず運用するだけなら70歳まで継続可能である。

10年間でマーケットが元に戻るかどうかは不確定だが、過去の世界的な金融危機はおよそ10年に1回のサイクルで上昇と下落を繰り返しており、回復する可能性は十分考えられる。すぐにiDeCoの資金を引き出す必要がなければ、回復を待ちながら運用を続けることも検討しよう。

方法2……年金形式で分割して受け取る

iDeCoで60歳以降も運用を継続するのは1つの方法だが、生活するための手元資金や収入がなければ選択しにくい。その場合は、年金形式で分割して受け取る方法もある。

運用資産が値下がりしているときに一時金で受け取ってしまうと、損失が確定してしまう。必要な分だけ年金で受け取っていけば、残りの資産はiDeCoでの運用を継続できるため、回復を待ちつつ給付金を手にできる。iDeCoの資産を分割で受け取ることで大切な老後資金を使いすぎる心配も減る。

ただし、iDeCoの受け取りは1回ごとに400円(税抜)の手数料がかかるため、年金受取はその都度発生することを覚えておこう。

iDeCo(イデコ)の受取時期に向けてリスクを抑える方法もある

先に紹介した2つの方法は、iDeCoの受取時期に損失が出ていた場合の対処方法だ。本来は、運用資産が減ることを避けてiDeCoの受取時期を迎えるのが望ましい。そのためには受取時期が近づいてくる50歳代などから、株式のような値動きの大きい資産を売却して債券や元本確保型の商品に少しずつ切り替えていくといいだろう。

そうすることで相場変動による影響を抑えられるため、受取直前の損失リスクを回避できる可能性が高まる。

6.iDeCo(イデコ)での投資は損をしたときにどうすべきか想定しておく

iDeCoは積立投資が原則であり、リスクを抑えた運用を行いやすい。それでも株式市場のショックなどが起これば、大きく減少することもある。投資をする以上、不測の事態は避けられない。重要なのはそうしたときにどのように対処するのか想定しておくことだ。

iDeCoで損失が出た場合、投資経験が浅いとどうすればいいのかわからない人もいるだろう。ただiDeCoは制約が多いため取れる選択肢が限られている。ここまで紹介した対処法だけでも十分に参考になるはずだ。

iDeCoは老後を支える大切な資金を作る制度だ。うまく損失とも向き合いながら活用していってほしい。

 

國村功志
執筆・國村功志
大手証券会社で株式・債券・投資信託などの金融商品販売に携わる。その後、ファイナンシャルプランナーの養成団体やFP事務所を経て、現在は資産形成FPとして活動。個人の資産運用経験も活かし、金融機関や一般の人向けに毎月セミナーも開催。CFP®、証券外務員一種保有。
大手証券会社で株式・債券・投資信託などの金融商品販売に携わる。その後、ファイナンシャルプランナーの養成団体やFP事務所を経て、現在は資産形成FPとして活動。個人の資産運用経験も活かし、金融機関や一般の人向けに毎月セミナーも行っている。CFP®、証券外務員一種保有。

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