- 神宮外苑再開発が現行プランになっている理由
では次に、神宮外苑再開発が現行プランになっている理由について解説します。
ここではざっくり述べますが、詳しい話を知りたければ以下記事などを読むといいです。
樹木伐採だけではない 明治神宮外苑再開発が抱える課題
実は、明治神宮内苑と、外苑のうちの多くの部分(66.2%)は、宗教法人である明治神宮の「私有地」なんですね。
外苑にある施設群の多く(神宮球場、軟式野球場、テニス場など)も全て明治神宮の管轄です(秩父宮ラグビー場などは違うのだとご指摘いただきました)。
ウィキペディアに載っている2016年の週刊ダイヤモンドの報道によると、明治神宮の賽銭や玉串料などの「神社としての収益」は全体の12%程度でしかなく、結婚式場などで15億円程度、外苑のスポーツ施設で60億円程度収益をあげて維持費を捻出しているらしい。めちゃ単純に計算すると60億+15億=75億が総売上の88%ということなので、総売上85.2億円(2016年)という事になります。利益率とかはわかりません。
で、ここでの大問題は、
・神宮球場や秩父宮ラグビー場は耐震問題などがあって建て替えが必須(望ましい) ・明治神宮は宗教法人なので、公金が一切入れられない。
…ということなんですよ。(→一部の人は「建て替えをしないプラン」を推しているというご指摘がありましたので、それに対しての別立ての考察は後編をお読みください)
この「宗教施設には公金が入れられない」という問題は、想像以上にかなり厳密な運用がなされているらしく、災害復旧などでも同じ論理が適用されることで宗教施設が取り残される例などが出ているらしいです。(→これも例外がありうるというご指摘がありましたが、基本的にはそういう運用になっているわけで、それを超える解決策を出すのなら明治神宮側の懸念を迎えに行くようなメッセージの出し方が必要だったのではと思います。それも後編で考察します。)
もともと、広大な内苑・外苑全体の公園としての維持費をイチ宗教団体が担うこと自体が無理がある構造だと関係者が述べていて、毎年の売上(利益ではない)が85億円程度の明治神宮には、総工費3000億円以上もの再開発費用は到底負担できない。(→この工費は再開発をせず簡素化すればもっと安くなるというご指摘はもっともですが、それについても後編をお読みください)
で、結果として出てきたのが、南側に建っている伊藤忠商事本社ビル建て替えも巻き込んで、さらに三井不動産の再開発事業と絡めることで資金を捻出する現行案ということになります。
細かいスキームは公開されていないのでわかりませんが、おそらく
・三井不動産が明治神宮へ借地権代を払ってビルを建ててそこでホテル運営をする
…というのが基本で、さらにこのダイヤモンド・オンラインの記事では、
・”空中権取引”という制度を使って三井不・伊藤忠から明治神宮へ資金が流れる仕組みがある(有料記事なので詳細はここで述べませんが建て替え資金のかなりの部分がここから生み出される仕組みになっている模様)
…とされています。
「空中権取引」とは、単純にいうとその取引によって外苑部分が使用していない「容積率を移転」することで、三井不動産や伊藤忠商事が本来よりも容積率の大きいビルを建てられるようになる取引です。
ダイヤモンド・オンラインの記事では「銭ゲバの明治神宮」みたいな印象の書きぶりですけど(笑)、建て替えが必要なのは明らかなのに公金も入れられないという大問題がある中、なんとか資金繰りの目処をたてようと関係者が知恵を絞って頑張ってきた結果が現行案だというように私には見えます。
(このあたり、明治神宮の財政について公開されていないのが問題だとか、そもそもこのプランは東京都側が発案で明治神宮は後から乗ったのだというご指摘がありましたが、明治神宮の財政については先程の売上と後述する森林管理費試算だけでも厳しいことは推察されますし、例え最初の発案が東京都側であったとしても、これほど大きなプランに乗っかる意味はそういう事情があってこそだという話は間違っていないと思います。そのあたり、後述のイコモス案原文から抜粋した文章にもある通りです。ただこれに限らず全体として情報公開が非常に乏しい状態にあるというのは否定できないと私も思いますが、これも”公開したら絶対曲解されて有る事無い事悪く言われるに違いない”と警戒するのも一種当然かもと思えてしまうような言論環境が放置されている部分から解決していくべき課題だと考えます。それについても後編で詳しく書いていますのでお読みください。)
3. 「事情は全部テーブルの上にあげて、賛成派も反対派も同じ目線で考えるべき」さて、ここまでで、
A・まず「現行案」が策定されて支持されている理由を理解する
…がとりあえずできたかと思います。
賛成するにしても反対するにしても、ちゃんと「事情」を理解した上でやるべきだと思うんですよね。
個人的にはここまで把握した段階で、
「まあまあ色々と考えて作られた案なのでは?」
…という印象になりました。
読者のあなたはどういう印象を持ったでしょうか?
私は最初あの「内苑の森」が切られて変なショッピングモールになるのかと思っていた時にはマジでふざけんなよと思っていましたが、かなり印象が変わりました。
あの「圧倒的な内苑の森」に比べれば、外苑の方の樹木は言ってみれば「豪華な街路樹」程度の存在に個人的には思えますし、あのアイコニックな「イチョウ並木」は残ります。(ただし、建物が木に結構近い位置にまで張り出してくるので、それが樹木に悪影響を与えるのでは?という反対派の懸念が提出されて議論されてはいるようです)
それに、「建て替えが必要な設備の数」といったプロジェクトの大きさを考えると、正直言って「ここの部分の木を切るだけでいいの?」という印象を個人的には持つぐらいには配慮されていると思いました。
ただ、そりゃもちろん木を切る数が少ない方がいいし、ビルの近くになることで樹木に悪影響があるかも?などといった指摘がなされるのもわかる。
というわけで次は、反対派が掲げている「イコモス案」というのを見てみましょう。