ADHDは危険な薬の正当化に大いに貢献
現在、アメリカ社会で依存症形成や薬物過剰摂取死に関して大きな問題になっている3分野と言えば、ADHD治療薬としての覚醒剤、双極性障害(躁鬱症)治療薬としての抗うつ剤、建前としては末期癌の患者の激痛を緩和する薬としてのオピオイド(合成麻薬)でしょう。
次のグラフは、こうした「規制物質」がどんなに将来性豊かな市場を形成しているかというマーケットリサーチ会社の宣材パンフレットの一部です。
規制物質市場全体の半分近くを占めているオピオイドが、末期癌患者の激痛を緩和するためだけに使われているはずはありません。
とにかく良く効く鎮痛剤を患者が欲しがると、製薬会社からのキックバックも大きいし、同じ患者が何度も処方をもらいに来るので自分の所得増加にも貢献するオピオイドを処方する医師が多いからこそ、これだけの数字になっているのでしょう。
また、覚醒剤も市場全体の4分の1近くになっていますが、投薬などしなくても成長につれて自然治癒することが多いADHD患者に処方されるだけではなく、本来疲労を感じているべきときにも元気でいたい人たちからの要望に応じる医師が多いことを示唆しています。
こうした規制物質市場の繁栄がとくにアメリカで目立つのは、やはり1946年のロビイング規制法制定によって製薬会社が多額のワイロによって薬品行政当局を丸めこむことができるようになった第二次世界大戦以降のことだと思います。
アメリカ英語の中で、さまざまな医薬品関連用語がどの程度の頻度で出現するかを調べたデータは、次の2つのことばについて、明瞭に第二次世界大戦直後からの急増を示しています。
やや専門性が高いアディクションということばは、1970年代後半にピークを打ってその後は横ばいになっています。アディクション症状を示す人を見る機会が多くなるにつれて、ことば自体の衝撃性も1970年代末頃には薄れていったのでしょう。
それに比べて、ごく一般的に薬という意味でも使われていますが、最近ではとくに非合法で所持したり、服用したりする中毒性や依存症形成リスクの高いクスリに使われることが多くなったドラッグスは、21世紀に入って使用頻度がさらに加速しています。
規制物質市場急拡大の主役はオピオイドこのドラッグスということばの使用頻度が大激増したことの主役がオピオイドであることは、次からの一連のグラフでも明白だと思います。
まず薬物過剰摂取死全体を見ると、男性で2010年代後半に横ばい状態になっていたものが、2020年のロックダウンやマスク着用が強制されていた時期に大激増します。
現場に出なければ仕事にならない人たちのあいだで「家に閉じこもってすることはないけれども、政府に支給された特別手当や失業保険給付の割り増しで取りあえず遣うカネはある」ということで危険な薬物摂取が増えていたのでしょう。
その意味からも、ロックダウンやマスク着用の強制はほんとうに大きな被害をアメリカ国民に及ぼしたと思います。中でも犠牲者が増えたのがオピオイド服用による過剰摂取死でした。
2016年以来大激増が続いていた上に、2019年からさらに多くの犠牲者を出してしまったのが、フェンタニルなどの合成オピオイドでした。
また、第二次世界大戦直後には痩せ薬として使われていたメタンフェタミンなどの覚醒剤も2016年頃から犠牲者数が激増を続け、薬物過剰摂取死の原因となった薬品の中で合成オピオイドに次ぐ第2位となっています。
オピオイド全体の犠牲者数は2021年に8万人を突破し、全薬物過剰摂取死のうち約8割を占めるにいたりました。
なお、医師の処方箋をもらって服用する処方箋オピオイドは過去3~4年、年間犠牲者数が1万人台前半にとどまっています。オピオイド中毒死全体の中では低めに見えますが、かなり大きな問題をはらんだ数字だと思います。
まず、医師の処方箋に通りの量を服用していれば安全なはずなのに、犠牲者が出ること自体が大問題です。
おそらく、同時に数人の医師から処方してもらって危険な量を服用することができる、つまり処方箋薬局で名寄せをして危険な量を売らないようにする体制ができていないのでしょう。このへんにも製薬会社の「売らんかな」の姿勢がちらついています。
さらに、オピオイド常用者が医師にオピオイドを何度も処方してもらっているうちに、もっと強い刺激を求めてフェンタニルなどの違法オピオイドに移行するようになったために、処方オピオイドの犠牲者数は横ばいにとどまっている可能性があることです。
1999年から2011年まで処方薬オピオイドの中毒死が年々かなり増えていた頃には、他のオピオイドとの併用で死に至るケースはなく、処方薬だけでなくなっていた方が多かったのです。
フェンタニルなどの強力なオピオイドを買い求めることが容易になってからは、違法オピオイドに移行するチャンスが増えたために、処方薬オピオイドの犠牲者数は横ばいにとどまっているのではないかと思います。
したがって、サンフランシスコのように違法オピオイドの売買が半ば公然とおこなわれ、民主党リベラル系の市長が違法薬物を「安全」に取引し、吸引したり注射したりする場所を提供している地域では、違法薬物過剰摂取死が激増しています。
ロックダウンが実施された2020年には前年比で64%も伸びていたサンフランシスコ市内の薬物過剰摂取死は、日常生活が帰ってきた2021~22年には小康状態を取り戻したように見えていました。
しかし今年はまた、第1四半期だけで200人の犠牲者を出し、年間通算では800人になると予想されています。人口80万人強の都市で800人の犠牲者が出るということは、10万人当たり100人、病気などによる自然死以外では激甚災害でもなければあり得ない数字です。