そんな中、セクハラに関連する別件のスキャンダルが発覚しました。

<事例3d>テレビ朝日『報道ステーション』 2018/04/25

富川悠太アナ:人気アイドルグループTOKIOの山口達也メンバーが女子高校生にわいせつな行為をしたとして警視庁に書類送検されていたことがわかりました。捜査関係者によると、山口メンバーは今年の2月に港区六本木の自宅で無理やりキスをした疑いが持たれています。山口メンバーはテレビの仕事を通じて女子高校生と知り合ったということです。山口メンバーは取り調べに対して大筋で容疑を認めているということです。所属事務所は「お酒を飲んで被害者の方のお気持ちを考えずにキスをしてしまいましたことを本当に申し訳なく思っております。被害者の方には誠心誠意謝罪し和解させていただきました」とコメントしています。次です。

この間たった57秒、論評抜きの報道でした。芸能人は国民にとって私的な存在ではありますが、その大衆への影響力は極めて高く、社会問題として取り上げるのには高い報道価値があると言えます。

しかしながら、「山口メンバー」こと山口容疑者の所属事務所がテレビの視聴率獲得に直結する芸能人を多く抱えているジャニーズ事務所であるということなのか、未成年に対するわいせつ行為であるにも拘らず、報道は極めて淡白で事務的なものでした。財務省セクハラ事案で女性の人権を問題にしていた『報道ステーション』が加害者の所属集団によって明らかな待遇差別を行っていることがわかります。

1週間後、『報道ステーション』は、山口達也氏の不起訴処分について報じ、最後に次のように付け加えました。

<事例3e>テレビ朝日『報道ステーション』 2018/05/01

富川悠太アナ:ジャニーズ事務所のジャニー喜多川社長がコメントを発表しています。「全ての所属タレントの親としての責任を負いながら、今後も彼らが人として成長できますよう支援し続けてまいる所存でございます。」とお詫びとともにコメントしました。ジャニー北川社長がこのようにコメントを発表するのは極めて異例のことだということです。

口頭によるセクハラ疑惑を理由に麻生大臣が辞めるべきであるとするテレビの論調が支配した中で、肉体による強制わいせつ事件を起こしたタレントの所属会社のジャニー喜多川社長に対しては「社長がこのようにコメントを発表するのは極めて異例のこと」としてありがたく紹介しています。

政府に不祥事があるとマスメディアが必ず口にする「民間ならトップは責任をとって辞める」というのは、都市伝説に過ぎないと言えます(笑)。さらに翌日には、『報道ステーション』は長時間を割いてTOKIOの謝罪会見を放映しました。

<事例3f>テレビ朝日『報道ステーション』 2018/05/02

富川悠太アナ:TOKIOの皆さんは福島を応援し続けていたということもありまして会見で福島のことに話が及びますと、より皆さん神妙な面持ちで異口同音「可能であればこれからも支援をさせてもらいたい」と話していました。

まず、TOKIOのメンバーが、山口氏の強制わいせつ行為に対して国民に謝罪することには何の意味もありません。TOKIOのメンバーには何の過失もなく、このような会見を行うこと自体が不合理です。あえて言えば、この会見は、TOKIOのイメージダウンを解消するという目的においてのみ意味があります。

そしてテレビがこの会見を流す意味は、視聴率確保のための優良コンテンツであるTOKIOの商品価値を落とさないことと、人気タレントが多数所属しているジャニーズ事務所に対して貸しを作るということに他なりません。腫れ物に触るように語る富川アナの言葉にその意図が溢れています。テレビ朝日にとっては、セクハラに対する本質的議論よりはTOKIOの今後の方が大きな関心事と言えます。

さて、この1年後、ジャニー喜多川社長はくも膜下出血で入院して亡くなりましたが、この間にテレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』玉川徹氏はまるで媚びへつらうようにジャニー喜多川社長を崇拝するような称賛の言葉を連発しました。

<事例3g>スポーツ報知 2019/07/02

■玉川徹氏、くも膜下出血で入院のジャニー喜多川氏を「唯一無二。日本の芸能界にとってその重みって凄い」

コメンテーターで同局の玉川徹氏はジャニー氏について「同じようなシステムの会社ってないですよね。唯一無二ですよね。その重みって凄いことなんだと思います。日本の芸能界にとって」とコメントしていた。

<事例3h>スポーツ報知 2019/07/10

■玉川徹氏、亡くなったジャニー喜多川社長を「50歳を超えてから花開いた。うらやましい人生を歩まれた」

番組コメンテーターで同局の玉川徹氏は「まだまだやりたいことは、おありになったとはもちろん思うんですけども、最後の最後まで現役で、考えてみると自らの理想の世界がおありになったと思うんですね。それがジャニーズっていう世界観だと思うんですけど。それが年を経るごとにどんどん花開いたっていう印象がありますね」と指摘した。

しかしながら、そのジャニー喜多川社長は、ジャニーズ事務所のタレントに性的な加害を与えたことが2003年に東京高裁で明らかになっており、その経営システム自体に大きな問題があることは自明でした。テレビ局の社員がそのことを知らないわけがありません。しかし彼らは、この件について「報道しない自由」を存分に行使して、テレビ局の利益に繋がるジャニー喜多川氏を糾弾することは一切なかったのです。

この日本のテレビメディアの欺瞞を打ち砕いたのが、2023年3月7日の英国BBCによる衝撃の報道でした。