原因はたんなる研究開発費の節減か?
それから半年もたたない2019年3月に、エチオピア航空の737 Max機が同国首都アジスアベバ空港を離陸した直後に墜落したのも、ほぼ同様の理由だったと言われています。
いったいなぜ、ボーイング社はこれほど安全対策が不備なままで、新型機種を就航させてしまったのでしょうか。
よく持ち出される説明が「アメリカ産業界のご多分に漏れず、航空機という人間の命を預かる製品を送り出す企業までもが、増配や自社株買いにばかり熱心になって研究開発費を節約しすぎた」というものです。
下のグラフは、表面的にはこの説明の正しさの証拠のように見えるデータを示しています。
上段でご覧のとおり、軍需産業のさまざまな収益指標の中で、研究開発費だけが悪化しています。さらに、下段では軍需産業各社もまた、配当の増加や自社株買いにはかなり注力していたことがわかります。
ただ、軍需産業は将来の収益成長への投資より配当・自社株買いといった株主還元のほうを優先する風潮が顕著になる前から、研究開発投資の少なさで悪名高い業界でした。
アメリカの軍需産業研究家の中には「研究開発投資が少なすぎるから売上高成長率で中国の軍需産業大手に対してはるかに見劣りがする成果しか出せていない」と苦言を呈する向きもあります。
その根拠となっているのは、次のグラフが示すとおりの米中軍需産業大手の売上成長率格差です。
「国防予算依存度の高い軍需産業各社の中では研究開発投資額が比較的多かった旧ユナイテッド・テクノロジーズ社とレイセオン社が合併して誕生したレイセオン・テクノロジーズ社だけが、中国の軍需産業大手に匹敵する売上高成長率を達成している」というわけです。
たしかに、比率で見ればレイセオン・テクノロジーズ社の研究開発投資額は、アメリカの同業他社を大きく上回っています。ですが、絶対額で見れば、研究開発投資に熱心な他産業の大手に比べれば微々たるものです。
私は、レイセオンの売上成長率が高かったのは、民主党ジョー・バイデン政権誕生とともに、陸軍大将まで昇進したあとレイセオン社重役を務めていたロイド・オースチンがそのまま国防長官に就任したことの効果のほうがずっと大きかったのではないかと考えています。
現代アメリカの政財官界は、それほどコネ(縁故)とカネ(贈収賄)で動く世界なのですが、その仕組みを解明する前に、もう少しアメリカの軍需産業が持つ財務・収益体質の特徴をチェックしておきましょう。