ですが、私は、この大惨事を招いた間接的ではあるけれども非常に大きな要因は、ボーイング社を始めとするアメリカの軍需産業各社が、国防予算からの発注を受けるにあたってあまりにも有利な条件で受注できることに慣れきっていたことだと思います。
そのへんの事情をまず、この2つの事故の原因調査の結果などから解明していきましょう。
ボーイング737 Max、2年連続墜落事故の真相ボーイング737 Max機の原型となった737シリーズは、1967年に初就航した737-100以来、中距離を航行する座席数中規模の旅客機の中では圧倒的に高いシェアを持つ花形機種を多数産み出してきました。
ところが、世紀の変わり目になった1990年代末から2000年代初頭にかけて、旅客機の売れ筋がもう少し航続距離が長く、もう少し大勢の旅客を積みこめるタイプに変わっていたのです。
この分野では、1970年に設立されたヨーロッパ諸国連合の航空機製造会社エアバス社のA320 neoという機種が、原型であるA320がボーイング737より機体が太いことを利用して大きなエンジンを採用してボーイングから市場シェアを奪う形勢になっていました。
そこで、ボーイング社としては機体の細い737に強引に大きなエンジンを装着するために、これまでの737型機より機体の前方の高い位置にエンジン取り付け箇所を変更したのです。しかし、この設計変更によって737 Maxには深刻なリスクが出てきました。
エンジンという重い部品が機首に近いところにあると、機首側に浮力が生じて機体が立ち上がるかっこうになって、失速する懸念が大きいのです。
同社の研究開発陣はこのリスクを抑えるために、標準装備として「操縦性補正システム(MCAS)」という自動制御装置を737 Maxに取り付けることにしました。その機能は次の図解でご覧いただけるとおりです。
しかも、737 Maxにはこの自動制御装置が装着されていることをボーイング社はきちんと説明せずに「737が原型になっているから、737の操縦桿を握ったことのあるパイロットなら、約2時間の机上講習だけで737 Maxも操縦できる」と宣伝していました。
2016年に初就航した737 Maxはたちまち人気機種となり、インドネシアのライオン航空機が墜落した2018年10月頃には、完成した機体が格納庫だけには収まらず従業員の駐車場にまで駐機して世界各国の航空会社への納機を待つという状態でした。
そもそも非常に重要な役割を果たす迎え角センサーが1機にふたつしか装着されておらず、しかもたったひとつだけが作動している状態での飛行もかなりひんぱんだったと言われています。
そんな中で、ライオン航空機が墜落した際には、たったひとつだけ作動中だったセンサーが機体は水平であるにもかかわらず、機首が浮き上がっているとの間違った情報をフライトコンピューターに送ってしまったようです。
そのため、MCASが起動されて水平の機体を強引に機首を下向きに変えてしまい、操縦士が何度手動で機首を持ち上げても、執拗に機首を下げる動きをくり返していたと、後日の原因調査で判明しました。
大惨事を防ぐために何度も手動で機首を持ち上げたのに、そのたびにまた機首を下げられてしまうという体験をくり返したパイロットの絶望感と恐怖心は、想像するにあまりあるものがあります。