去年後半の反落はおそらく在宅勤務後遺症

この点については、私はひとつの仮説を持っています。

ちょうどこのころから、ハイテク大手の人員削減が目立ち始めたのは、華やかなイメージで在宅勤務をはやし立てていたハイテク大手各社のあいだで、在宅勤務の普及が余剰人員の多さを認識するきっかけになったのではないでしょうか。

当人は在宅勤務のほうが生産性が上がると思っているけれども、経営陣から見るとなんの成果も出せていない。きちんと出社するようにと業務命令を出しても従わない。いてもどうせ戦力にならないのだからと、大量解雇という事態にいたる。

こんな光景が、アメリカ中の大都市オフィスで見られたのではないでしょうか。中小都市では、ハイテク大手が大量に冗員を抱えていたということがほとんどなかったので、コロナ被害からの回復も比較的順調に進んでいるのだと思います。

それとともに、アメリカでは治安の良し悪しなどもかなり影響して、大都市になるほどいったん低下した都市活動を再稼動させるのに苦労が多いようです。

100万人をほんのちょっと上回るだけの人口しかいない都市なのに、華麗な大都会のイメージばかりが先行していたサンフランシスコと、しっかり地域に根付いた実物経済が生き残っている大都市、ニューヨークとロサンゼルスを3つの例外として、アメリカは都市規模が大きくなるほど、あらゆる自然災害や人災への対応がむずかしくなる国だと実感します。

事情はどうあれ、今後ハイテク大手の大量解雇をきっかけに、大都市圏中心にオフィス床需要の大収縮が起きることは間違いないでしょう。

大収縮するオフィス市場のツケはだれに回る?

間の悪いことに、2023年から2027年まで商業用不動産開発ローンの返済期限が集中していて、この5年間で合計2兆5000億ドルの償還が見こまれています。

当然のことながら、約定どおりの返済ができない開発業者も多くなるでしょう。貸し手の中で最大のシェアを占めているのは銀行ですが、不動産のビッグプロジェクトといえば、ほとんど大手銀行が融資の主力となる日本と違って、アメリカでは主役は中小銀行なのです。

このグラフを見ると、アメリカの大手銀行はもう2017年頃から商業用不動産向け融資は5000億ドル前後で横ばいに維持し、2020年からは若干とは言え減少させてきたことがわかります。

やはり、ほかにいろいろ儲け口があるアメリカの大手銀行にとって商業用不動産融資は取る必要のないリスクだったのでしょう。

一方、異常な低金利の中で大手ほどはFedからのミルク補給も期待できない中小銀行は、リスクは承知の上でこの分野を積極的に増やさざるを得なかったのだろうと思います。

銀行からの商業用不動産向け融資に占める中小銀行のシェアも、たった8年で57%から72%まで伸びました。

この状況でバンク・オブ・アメリカの好決算に便乗して中小銀行株のETFであるKREまで反発したと聞いてびっくりしたのですが、わずか2日間と3ヵ月弱のチャートを見比べれば、コップの中の嵐とさえ言えないほど小さな反発にとどまっていたことがわかります。

全米各地で、大手不動産投資信託(REIT)が借入金の返済に困って、融資団に開発中あるいは稼働中の不動産物件を渡して解散するという事態が始まりつつあります。

残念なことですが、この期に及んで中小銀行の連鎖破綻を回避することは、ほぼ不可能に近いのではないかと思います。