リスクが急拡大しつつある商業用不動産融資

まずバンク・オブ・アメリカを例にとってアメリカの大手銀行の融資ポートフォリオに商業用不動産融資が占める位置を確認しておきましょう。

右側のグラフでおわかりのように、商業不動産融資が企業向け融資に占めるシェアは2019年の21.2%から今年第1四半期の12.3%へとかなり大きく減少しています。ですが、融資全体に占めるシェアはほぼ不変です。

つまり、危険回避のために消費者向け融資から企業向け融資への転換は進んだけれども、その企業向け融資の中ではかなりリスクの高い商業不動産向け融資が融資全体に占めるシェアは下がっていないのです。

多くの銀行で商業用不動産投資中最大のウエイトがかかっているのはオフィスビル開発です。バンク・オブ・アメリカでも商業用不動産向け融資総額730億ドルのうち187億ドル、26%がオフィスビル開発向けでした。

2020年春の第1次コロナ騒動で多くの都市がロックダウンを実施したアメリカでは、その後丸3年になるというのに、オフィスビルの多くが抜け殻状態のまま放置されています。

大企業テナントなどの場合、賃借中の面積を圧縮することは経営不振を疑われたりするので、契約期間中に賃借面積を削ったり、別の小さなスペースに転居することはあまりしません。

ですが、借りている面積の中でどの程度が実際に従業員が出社して使っているかとなると、恐るべき数字が出ています。

私が仮に入居床占有率と訳したのは、きちんと契約を取り交わしたテナントが賃借中の面積を指す入居率のことではありません。

入居テナントの従業員がどの程度実際にオフィスに来て仕事をしているかを示す数字で、これはオフィス警備・安全保障などの大手企業、キャッスル社が自社の管理物件の入館証の利用状況から推計しています。

もう第1次コロナ騒動が始まってから3年、ほぼ平常どおりの生活に戻ってからも約1年経つというのに、アメリカの大都市オフィスビルの入居床占有率は、まだコロナ騒動勃発直前の水準に比べて半分にも達していないのです。

これはあまりにも深刻な数字なので、民間企業1社だけの推計で判断するのは危険と思って、いろいろほかの推計を探してみました。都市学部を持つほど積極的に大都市圏問題に関わっているトロント大学が、まさにそうしたセカンド・オピニオンを出してくれています。

なかなかユニークな発想で、大都市圏の経済・社会活動が盛んか不振かを調べています。携帯電話の使用頻度を、どの程度経済・社会活動がおこなわれているかの代理変数にするというのです。

ちょっと考えると、会う必要を無しで済ませるためにも使う道具なので、実際に特定の都市圏で人間がどのくらい活発に動き回っているかを測定するには向かないような気がします。

でも、私は昔から電話などによる通信は実際になま身の人間が会うことの代替財ではなく、補完財だと思っていました。

携帯でひんぱんに連絡を取り合うことがらを考えれば、だれかと会う日時や場所の連絡、行ったことのない場所に行くための案内を受けるためということが多いような気がします。

この携帯電話の使用頻度によって推計したアメリカ・カナダ合わせて62都市圏の活動ぶりは、コロナ前に比べて中央値で61%となりました。入居床占有率よりはマシですが、それでもやはりまだ4割近く都市活動が低下したままだという結果が出ています。

そのうちから特徴的な8都市圏を選んで活動状況を図示したのが、次のグラフです。

古くからの大都市がけっこう善戦している反面、サンフランシスコやシアトルなどの「シリコンバレー」系の人々が多い都市は惨憺たる状態です。

なお、サンフランシスコと同じカリフォルニア州の大都市でも、ロサンゼルスはシリコンバレー人脈とは縁が薄く、反面ロサンゼルス・ロングビーチ港がアメリカ最大の輸出入の窓口となっていて、しっかりした実物経済の基盤を持った都市です。

その結果、ロックダウンなどの被害も小さく済んで、比較的順調に回復しているのではないかと思います。

なお、この8都市にも入っているアトランタ、シカゴ、サンフランシスコに別の3都市を加えて、コロナショックのどん底からの回復を経緯を見たのが、次のグラフです。

人口でも経済活動でも北米大陸の中で突出して大きな都市であるニューヨークが、ロサンゼルス以上に健闘していることにはホッとしますが、それにしても完全に本格回復の軌道に乗ったかと思った2022年の6月末頃から、また経済活動が萎縮し始めたようです。