帝国臣民運動の信奉者は多岐にわたり、前述のように、帝国に生きている人、頭の中に奇異な考えが詰まっている人、極右、反ユダヤ主義者、犯罪組織やオカルト集団っぽいものなどもあり、統一した思想や組織は存在しない。最近はQアノンも混じっていると言われる。ただ、危険なのは、軍人や警察関係者がいることだ。軍事に詳しい彼らを放置すると、いつか本当に国家転覆計画が持ち上がる可能性がある。

彼らの存在が大きくニュースになったのは2016年10月のことで、特殊部隊が武器の不法所持を取り締まるために彼らの家に近づいたところ、何の警告もなしに銃弾が発射され、四人の警官が負傷する事件があった。翌日、うち一人が亡くなった。しかしそれ以後は、各種デモで帝国の旗と共に彼らの姿を見かけることはあったが、危害を加えてきたという話は聞かなかった。だからと言って、彼らが無邪気なグループというわけでは、もちろんない。

さて、ここでようやく、「なんで今この騒ぎ?」という最初の疑問に戻る。そもそも、政府が国家転覆の情報を察知したのだったら、手入れは秘密裏にやるだろうが、今回のそれは多くの政治家や報道陣が事前に知っていたという。しかも、総勢3000人もの警官が動員されたというから、何となく政治ショーっぽい。当然、情報は漏れていたはずで、急襲された方もそれなりの準備はできていたらしい。そのせいか、あると言われていた武器庫はどこにも見つからなかった。

逮捕された25人のうちの一人は、プリンス・ロイスと呼ばれ(ドイツは1918年に貴族を廃止している)、フランクフルトの実業家。1918年、ドイツ帝国の瓦解時、曾祖父が東チューリンゲンの侯爵だった。そして、このプリンス・ロイス(71歳)がドイツ帝国復活の暁にはカイザーになる予定だという。写真を見る限り、十分その貫禄はある。愛人がロシア女性で、ロシアコネクションも疑われているが、もちろんロシア側は否定。