また、帝国はいまだに戦時下にある。帝国内に米軍基地があるということが、連合軍による占領が続いている何よりの証拠だ。そして、もう一つの証拠は、国連に今なお残る敵国条項。ここには「第二次世界大戦中に連合国の敵国だった国」が良からぬ行為に走った場合は、国連加盟国はその国に対し、安保理の許可なしに制裁戦争を始めることができると記されている(ちなみに日本もドイツと並び、いまだに敵国)。
帝国臣民は現在の司法権も徴税権も認めないが、残念ながら国家権力を有していないので、仕方なく代理の政府を建てて独自の政務を遂行している。10年近く前の話だが、シュピーゲル誌のオンラインTVが、全国に散らばる “帝国領”を取材していた。そのドキュメントを見た私は、大袈裟でなく目が点になった。
ある国には、レオパルドの毛皮のマントを着て戴冠式をやっている時代掛かった王様がいたし、ある国では宰相と内務大臣が、警官の新しい制服について審議をしていた。彼らは勝手に王立銀行やら、王立保険会社を作り、将軍もいれば宰相もいて、独自の国章やパスポートや通貨まであった。
これらの活動は当然のことながら、現在のドイツの法律にことごとく抵触する。銀行業務や脱税が違法であるのはもとより、勝手に作った免許証で車を運転することも、建設許可なしに建物を改造するのもすべて違法なので、しばしば裁判沙汰になる。しかし、捜査に時間がかかったり、罪名が存在しなかったりで、なかなか効果的には取り締まれないという。誠に奇妙な話だ。