1つ目は、すでにご紹介した完全に分権的で権威の不必要な世界をすでに構築していることです。
2つ目は、景気のいいときには投融資基準を緩め、悪いときには引き締めるので、景気循環を平準化するのではなく、増幅する傾向があることです。
3つ目はしょせん投資用の待機資金ですから、製造業主導からサービス業主導への転換が進むにつれて、投資機会が減少し、ユーロダラーにとっては危機の時期が長く、平穏無事な時期が短くなることです。
2つ目、3つ目については悪い特徴だと思われる方が多いでしょう。ですが、私はこの2つも積極的に評価できる特徴だと思います。
議論の都合で3つ目のほうからご説明させていただきます。
製造業主導からサービス業主導への転換は、押し戻すことのできない時代の趨勢です。
そこで通貨供給権や金利調整権を握っているのが、投資機会の多い少ないで景況を判断する人たちだったら、延々と危機が続いた後にほんのちょっと小春日和、そしてまた危機と陰々滅々とした世界になってしまいます。
「こんなことではいけない。投資ではなく、消費を基準に景況を判断するようにしよう」と考える人が増えれば、もっと生活の豊かさを尊重し、経済に占める金融の役割の小さい社会が誕生します。
その通過点としては、てんでんばらばらに景況判断をするからあちこちに逆張りをする人も出てくるので、景況も厳寒にも酷暑にもなりそうもないユーロダラー本位制を一度正式に採用するのはいいことだと思います。
中央銀行がグローバリストに加担するわけ景気循環を平準化するより増幅したほうがいいと思うのは、千にひとつとか万にひとつの成功を願って投資をするのはやはり気が大きくなったときだけの特権のようなもので、そういう機会はたまにあったほうがいいからです。
また、みんなが景気が悪いと思って委縮しているときにあまのじゃくに冒険しようとする人が成功したときの報酬も大きくなります。
ただ、それはあくまで個人個人の判断が集合的にそうなってしまった場合の利点です。中央銀行のような統一された組織が景気循環を増幅する方向に突っ走ると、逆張りができないので壮大なバブルができ、そのバブルが突然崩壊すると延々と不景気が続いたりします。
ところが通貨発行権も金利調整権も失っているのに、まだ持ちつづけているふりをしようとする中央銀行は、必然的に景気循環を増幅する方向に動かざるを得ないのです。
どうもユーロダラーに通貨発行権を奪われるかなり以前から、中央銀行の当事者たちは自分たちの権限が「軽蔑すべき投機屋たち」に奪われつつあると感じていたようなのです。
もう失った権限をまだ持ちつづけているふりをするには、どうすればいいでしょうか。
景気が良くなりそうだと思ったら、通貨供給量を増やし、金利を下げて景気浮揚策を取っている体裁を整えます。そうすると、実際に景気が良くなったときに「中央銀行が適切な措置を取ったから、景気が良くなった」と褒めてもらえます。
まあ、たまにはへそ曲がりがいて「もう景気は良くなる方向に進んでいたのにさらに拡大策を取ったから、過熱してしまったじゃないか」と文句を言われる程度のことはあるでしょうが。
景気が悪くなりそうだと思ったときに、通貨供給量を絞りこむとか、金利を引き上げるとかのわざわざ景気を悪くする政策を実行するには勇気が要ります。「お前らが間違った判断をしたから、景気が悪化したじゃないか」と批判されるに決まっているからです。
でも、誇り高き中央銀行マンの立場に立って考えてみてください。「お前らが間違った政策を実施したから景気が悪くなったじゃないか」と言われるのは、自分たちが通貨供給量や金利を決定する権限を持っていると認めてもらえているからこそです。
実際に何の権限もないと見透かされて「あいつらはアナウンスメント効果とか、期待の醸成とか、通俗心理学者の気休めのようなことを言っているだけで、なんの権限もない連中だ」と言われるよりははるかにマシでしょう。
次のグラフを見ると、歴代の連邦準備制度議長たちは、かなりの覚悟を持って景気が悪くなりそうなときに、わざわざ利上げをくり返した形跡が濃厚です。
ここまであれこれ考えてきて、なぜ先進諸国の中央銀行がグローバリストの提唱する中央銀行デジタル通貨に賛成しているかが、やっとわかってきました。
彼らだって、失ってしまった権限を持っているふりをいつまでも続けるのはつらいでしょう。通貨発行権や金利決定権を市場の風任せから、自分たちの手元に取り戻したいと思っているのです。それには市場の働きをほぼ完全に封殺する統制経済しかないとしても。
これが、だれも通貨供給権も、金利決定権も持っていない世界がいちばんいいけれども、中央銀行とユーロダラーから適任者を選べと言われたら、私はユーロダラーを選ぶ理由です。
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編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2022年3月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。