自然な変化こそが主体性を取り戻す

そこからの下川課長の変化は目覚ましいものがありました。しかし、ご本人は元の素質を取り戻しただけなので、淡々とされたままなのが面白いところです。

一番嬉しかったのは、下川課長の部下のおひとり(Aさんとします)からのご報告でした。

Aさんは仕事の能力の非常に高い方なのですが、率直にものを言われる方でもあり、いつも「あんな課長いても意味がない」ということを公言されていたのです。

そのAさんから「課長がとても変わった」というお声をいただいたのです。

竹内「どう変わったのですか?」

Aさん「仕事に対して真剣になりましたよ。私にもはっきり意見を言うようになったし。なんか、リーダーですよ。そう、リーダーになりました、急激に。みんなを引っ張ってますよ。あんなリーダーシップがあるなら最初から出してもらいたかったですよ。まぁでも、ここからは課長と仕事するのが楽しそうだ」

その話を下川課長にお伝えすると、

下川課長「Aがそんなことを? 相変わらず生意気だな。でもなぜだろう? 私は変わってませんよ。ちょっと意見を言うようになっただけですよ。Aの方が変わったのでは?」

と、やつれないお返事でした。

竹内「下川課長は、どんな意見を皆さんにお伝えするようになったのですか?」

下川課長「あれですよ。『明るい意思』ってヤツですよ。仕事で何か決断しないといけない時、私自身が一番明るさを感じる選択肢を選ぶようにしたんです。それをみんなに推しているだけですよ。自然に強く推す感じにはなりますけど。」

なんとも秀逸なお答えです。

他者からはどう見ても大きな変化なのですが、ご本人のあまりの淡々ぶりに逆に笑えてきます。しかし、人間とはそういう生き物なのです。

主体性とは、ご本人の気づかないところで自然といつの間にか伸びるものです。なぜならそれは、その人の「素質」から掘り起こされたものであるからです。

それから1年、下川課長は今では木戸部長の最も信頼のおける「同志」となっています。部下どころか、部長までをも引っ張る存在です。

「次期部長は下川だ」と木戸部長は私に教えてくださいました。ご本人は、相変わらず淡々とされていますけどね。

<著者プロフィール>

竹内直人
KANAME Data Campus
研究所長

株式会社ITSUDATSU顧問・アドバイザー。KANAME Data Campus研究所長。株式会社真本音代表取締役。組織開発のスペシャリスト・チームパフォーマンスコーチ・真本音コミュニケーション開発者。コーチングがマイナーな27年以上前から質問中心の人材育成手法を使い、250社6万人以上をサポートする。現場の中から見出した真本音コミュニケーションを使い、「自律調和型組織」を創り、社長の想像を超える業績を残す組織を創り出している。