人が変わる瞬間を捕らえる

1週間後、再び下川課長にお会いしました。

竹内「いかがですか?呟いてみました?」

下川課長「はい、結構真面目にやりましたよ。でも特に何も変わらないですよ」

とのつれないお返事です。

しかし実は、パッと見た瞬間から下川課長の雰囲気が着実に変わっているのがわかりました。ご本人の気づかないところで「空気感」としてもエネルギーの高まりは人は無意識的に感じるものです。

これは想像以上に脈があるな、と私は確信しました。同時に、今この瞬間がこの人の「変わり目」だなとも思いました。

そこで私は唐突な質問をぶつけてみました。

竹内「下川課長、今から私が申し上げる問いに対して直観的に浮かぶ答えを教えてください。下川さんは、課長として、これから何を一番大切にされたいですか?」

直後に彼は、ポカンとしたお顔をしながら、「よくわかりませんが、『明るい意思』という言葉が浮かびました」とお答えになりました。

その瞬間に私は「出た!」と内心で大喜びしました。

この『明るい意思』というのは下川課長の本心の本心から出された言葉です。これを私は「真本音」と名付けており、その人の揺るがない人生の願いから発せられた言葉です。

竹内「では下川課長、もうちょっと騙されてください。今日からは『明るい意思』という言葉をお仕事中、呟き続けてください」とお願いしました。

そのコーチングの次の日でした。突然、木戸部長からご連絡が入ったのです。

木戸部長「竹内さん、下川が私に意見を言いましたよ!私の指示に対して、こうした方が良いと思います、と。それがかなり的確な意見でしたので、びっくりしました。下川に何かあったんですか?」

これを聴いて「やはり」と私はちょっとほくそ笑んでしまいました。

これをお読みいただいている皆さんは「そんなに簡単に人の行動が変わるものか」と思われるかもしれません。

しかし、人の心とは、その人の本心の本心が悦ぶ指針を得ることで、一気に変化を始めるものです。そしてご本人が自覚しないまま無意識的に行動の変化が始まります。

案の定、次のコーチングでお会いした時、下川課長はご自分が部長に意見したこと自体をお忘れのようでした。

私が部長からのご報告内容をお伝えすると、「確かにそうでしたね。でもちょっと意見を言っただけですよ。その場の思いつきですし。」との答えでした。

ご本人にとっては全く自然な行動。しかし周りから見ると、かなり大きな変化です。

人の変化というのは大概、こういったかたちで始まります。