気懸りな労働分配率の低下

それでもやはり、アメリカ経済全体の今後の展望となると、暗い印象しかありません。最大の理由は国民経済に占める金陵所得の取り分である労働分配率が長期的な低下傾向にあるだけではなく、その変化に加速度がついていることです。

裸の王様にされてしまったアメリカの消費者たち
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

第二次世界大戦直後の1947年から現在までの労働分配率の低下のうち、約4分の3は21世紀に入ってから起きています

これだけ顕著な労働分配率の低下をもたらした最大の要因は、どうやら単純な会計上の決めごとのように見える減価償却費の計上ルールにありそうです。

裸の王様にされてしまったアメリカの消費者たち
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

いったん購入した設備装置については、取得時の価格でバランスシートに記載し、そこから先は毎年低額法か定率法で減価償却分を引いていくのが、当然の会計慣行になっています。

ですが、慢性インフレの起きている欧米先進国のほとんどで、その結果既存の設備装置が実質価値よりはるかに少額の価値しか持たないように過小表記されることになります。

その結果、投下資本利益率は人為的に高めに評価されて、株価を高める役割を果たすとともに、企業全体の付加価値のうち本来労賃になるべき分が設備装置の減耗分として、じつは資本の取り分、隠れ財産にされてしまうという事態も起きているのです。

この重大なポイントを素通りして、どのセクターが資本分配率上昇に貢献していたかばかり論じるマッキンゼーのレポートは明らかに本末転倒です。

しかし、経営コンサルと公認会計士の仕事は密接不可分ですから、そのへんはあまりつつきたくないという職業的な「配慮」も影響しているのでしょう。

勤労者は知っている

ただ、会計操作でどんな小細工をしようと、勤労者の取り分が年々、しかもかなり大きく削減されていることを、アメリカの勤労者は知っています

最近、アメリカで労働力参加率が急激に減少していることが話題になっています。

労働力参加率とは、就業中と、失業しているけれども次の仕事を探している人の人数を、労働力年齢の総人口で割った比率のことです。

第二次世界大戦後のアメリカの労働力参加率は、以下のとおりでした。

裸の王様にされてしまったアメリカの消費者たち
(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

アメリカの労働力参加率が低下している原因については、いろいろな説があります。勤労倫理あるいは勤労意欲が低下しているという説もあり、失業給付その他の社会保障が充実しているので失業しても慌てて次の仕事を探す必要がなくなったという説もあります。ですが、労働分配率が急低下しはじめたと同時に労働力参加率が低下に転じたのは、まったくの偶然ではありえないことを考えれば、正解は明らかでしょう。一生懸命働いても、取り分を資本に巻き上げられてしまうことが多くなったから、労働参加率は下がり続きてきたのです。 ■

裸の王様にされてしまったアメリカの消費者たち
(画像=増田悦佐先生の新刊が出ました。、『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2022年7月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。

文・増田悦佐/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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