投資が回復しないのは、消費が冷えこんでいるから

日本国民の大多数を占める平均的な賃金給与を稼いでいる勤労世帯では、1999~2015年の期間で、実質所得が低下したままの状態でした。

2016年からやっと回復に転じて、2018年になんとか1999年の水準を奪回しただけなのです。

こんな状態で「これからインフレが本格化するから、どうせ必要なものは早く買っておいたほうが得だ」などと宣伝しても、日本の消費者は賢いのでむしろ将来に備えてますます財布のヒモを引き締めてしまいます。

だからこそ、企業がなんとか儲かりそうな事業に資金を投じたいと思っても、なかなか消費者が跳びついていくる新製品も新サービスも考えつくことができないのです。

それでもなお、本来自己責任で損を引き受けるべきプロの投資家から高値で国債を買い取ってやることには毎日数兆円を遣いながら、ほんとうに困窮している勤労世帯のためには年間数百億円とか数千億円の支出にも二の足を踏むのが、現在の日本政府・日銀なのです。

アメリカの政府・連邦準備制度が大企業本位の政策しか打ち出さないのは、巨額ワイロで丸めこまれているからです。

それに比べて、日本の政府・日銀はいまだに「国民には我慢をさせてでも大企業の投資最優先の政策が結局は国民全体を豊かにする」という高度成長期には正しかった時代錯誤の古い発想に縛られているので、輸出産業や金融業界に奉仕する政策しか取れないのでしょう。

お答え2:この苦境を乗り切るためには、日本国民も今までのように貯蓄中心の堅実な資産形成から、NISAなどを活用して積極投資に転換すべきでしょうか?

私は、それは日本国民の大多数をさらに貧困化させることにしかつながらないと思います。

一億総投資家社会を目指すべきか

金融化の進んだ経済は、必然的にいつでもどこにでも投下できる原資をたくさん持った大金持ちはますます資産を増やし、小さな元手を懸命に拡大しようとする個人投資家の大部分は、一度か二度の金融危機で元も子もなくすという残酷な社会を創りだします。

次のグラフをご覧ください。

これがアメリカの勤労所得の、所得階層別累計変化率です。トップ0.1%は、折れ線グラフでは同じ縮尺の中に収まらないほど所得が伸びています。トップ1%も、この39年間に158%も所得が増加しています。

しかし、下から90%の累計伸び率はわずか24%で、年率にすると0.5%にも満たないほどの小さな伸びしかしていません。

この中にはトップ11%目というかなりの高額所得者も混じっていて、こうなのです。

アメリカでは日本でNISAと称している、確定拠出型で運用さえうまく行けば大きな資産を築ける301kという年金制度もかなり昔から普及していました。

ですが、毎月ごくわずかな金額しか積み立てることのできなかった301kの大半は、2000~02年のハイテクバブル崩壊、そして2007~09年のサブプライムローンバブル崩壊でのへこみを取り戻せず、水面下のままという状態です。

もちろん、中には運良くこのふたつの危機を乗り切って、大きな資産形成に成功した人もいるでしょう。ですが、完全に年金資金を失ってしまった個人世帯も多いし、金融市場で表に出てくる数字は、生き延びることのできた幸運な少数者の運用実績なのです。

アメリカの個人家計の大半がいかに切迫した環境で苦闘しているかは、次の勤労者数統計に如実に表れています。

中層以下のアメリカ世帯では夫婦共働きはかなり昔から定着しています。最近顕著なのがひとりでふたつ以上の仕事を掛け持ちしている勤労者の激増で、ようするに夫婦で3つ以上の仕事をこなしながら、なんとかやりくりしているのです。

こういう世帯でひねり出すことのできる余裕資金を投資に回しても、なかなか順調な資産形成は望めないでしょう。

それ以上に、本業にまじめに取り組んでいれば多少はゆとりのある生活のできた高度成長期後半の社会を再現することを目指すべきであって、しょせん原資が大きければ大きいほど有利な投資に頼って、本業ではむずかしい生活水準の安定を図るべきではないと思います。

お答え3:世界最大の対外投資を少しでも取り崩して、窮迫した国民の支援に使えないものでしょうか?

もちろん、原則的にそれは可能ですし、国民が労働生産性の上昇率程度のわずかな給与所得の増加にさえ与っていない現状では、真剣に検討すべき課題です。