- 金融機関の金融資産・負債残高
次に金融機関の金融資産・負債残高を見てみましょう。
図4 資金循環 ストック 金融機関日本銀行 資金循環統計 より
図4が金融機関の金融資産・負債残高のグラフです。
金融資産と負債がほぼ対称的に推移していて、直近では両方とも5000兆円に届きそうな勢いです。他の経済主体がせいぜい1000~2000兆円なのに対して、非常に大きなボリュームとなります。
金融資産も負債も、1990年代から2010年ころまで停滞傾向が続いていましたが、その後増加傾向となっています。
資産側では、貸出が停滞していて、近年は債務証券や、現金・預金が増えています。資産のうち貸出は他の主体への融資などですが、1997年で1618兆円、2021年で1704兆円でほとんど増えていません。
資産側の債務証券は主に国債・財投債となります。
債務証券は1997年で512兆円、2021年で1242兆円と729兆円増えています。
国債・財投債は255兆円から920兆円で664兆円の増加です。
資産側の現金・預金の多くは日銀預け金です。
現金・預金は1997年で181兆円、2021年で817兆円と636兆円の増加です。日銀預け金は6兆円から563兆円と、557兆円の増加です。
日銀預け金(資金循環統計の解説より引用) 取引先金融機関から日本銀行へ預け入れられる当座預金である。
負債側で最も増えているのは、現金・預金です。これは他の主体の預金が多くを占めますね。
1997年に1114兆円でしたが、2021年には2373兆円と倍増(+1259兆円)しています。流動性預金が1997年で180兆円でしたが、2021年には952兆円と773兆円増えています。ただし、定期性預金は減少していて、この期間に144兆円減っています。
また、負債側の現金・預金のうち日銀預け金が6兆円から557兆円に増えています。
資産側と全く同じなわけですが、これは金融機関の中に中央銀行(日本銀行)が含まれるためと考えられますね。
一般の金融機関が日銀預け金を資産側で増やし、日本銀行が負債側で日銀預け金を増やしていて、金融機関全体で見ればプラスマイナスゼロです。
金融機関 金融資産・負債残高 1997年→2021年 金融資産:2924→ 4865 (+1941) 負 債:2909 → 4712 (+1803) 差 額: +15→ +153 ( +137)
- 海外の金融資産・負債残高
続いて海外の金融資産・負債残高について見てましょう。
図5 資金循環 ストック 海外日本銀行 資金循環統計 より
図5が海外のグラフです。
金融資産も負債も増加傾向で、負債の増え方の方が多いため金融資産・負債差額はマイナスで推移しています。
ここで海外とは、日本から見た場合の海外という立ち位置です。金融資産は海外が日本に対して持つ資産なので、日本から見た負債です。
資産側では、貸出、株式等、債務証券が増えています。
1997年から2021年の変化で見ると、貸出が99兆円→241兆円(+141兆円)、株式等が42兆円→270兆円(+228兆円)、債務証券が38兆円→218兆円(+180兆円)です。
債務証券の中で大きいのは国庫短期証券と国債・財投債で、2021年で合わせて166兆円となります。
負債側で増えているのは、対外証券投資と対外直接投資です。
つまり、日本の経済主体による、海外への投資です。特に対外証券投資が増えていて、1997年では118兆円だったのが、2021年では700兆円(+581兆円)に達しています。
多くは、日本の政府と金融機関によるもので、企業や家計による対外証券投資は各20兆円程度とそれほど多くありません。
対外直接投資は、1997年で32兆円だったのが、2021年では221兆円(+189兆円)です。
対外直接投資の多くは企業によるもの(2021年で173兆円)で、日本の企業の資産側に計上されています。
また、外貨準備は、負債側に200兆円近く計上されていますが、負債額や金融資産・負債差額の計算には含まれず、別出しされています。
外貨準備(資金循環統計の解説より引用) 通貨当局が、対外取引の決済に不足する外貨の(直接的な)ファイナンスや、為替市場介入による間接的な調整等を目的として保有する、直ちに利用可能でかつ通貨当局の管理下にある対外資産のことをさす。
海外 金融資産・負債残高 1997年→2021年 金融資産:227 → 853 (+626) 負 債:354 → 1271 (+917) 差 額:-128→ -418 ( -290)
- 金融資産・負債差額
最後に、各経済主体の金融資産・負債差額(純金融資産)を一つのグラフにまとめてみましょう。
図6 資金循環 ストック 金融資産・負債差額日本銀行 資金循環統計 より
図6が各経済主体の金融資産・負債差額を積上げて表現したグラフです。
非常に特徴的なグラフですね。
まず、各経済主体の金融資産・負債差額を合計すると必ずゼロになります。そして、家計(青)が必ずプラスになっていて、しかも増加し続けていることになります。その反対の負債側で企業や、政府、海外が負債を増やしている様子が分かります。
家計が純金融資産が増えて豊かになり続けている反対側で、必ず負債を増やし続ける経済主体が存在することが視覚的に理解できます。
グラフを見れば明らかなように、1990年代中盤前はそれが企業(赤)だったわけですね。当時は企業が負債を増やす反対側で、家計が資産を増やしていたという関係性です。
企業の純金融負債はその後、やや減少しつつ停滞します。
その企業の代わりに純金融負債を増やしているのが、政府(緑)と海外(黄)という事になります。
このグラフは、企業の変質について非常に示唆的だと思います。
もちろん、バブル期に企業が負債を過剰に積み上げた影響も大きいと思いますが、日本における企業の経済活動の停滞をよく表していると思います。
日本の企業は、売上高・付加価値と、給与総額が長期間停滞している事とも符合していますね。(参考記事: 日本企業の「変質」)
ビジネス
2023/01/13
「資金循環」って何?
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