資金循環統計では、1年間の金融取引を記録したものをフロー表、金融資産・負債残高を記録したものをストック表、フロー表とストック表を関連付ける各期の調整額を記録した調整表が作成されています。
ストック表は時価で表されるため、前期のストック表に今期のフロー表を足しただけでは、今期のストック表と一致しません。
株式のように時価額が変化する金融資産・負債の変化分や、その他フロー表では表現できない調整項目が発生するためのようです。
金融資産・負債差額は、各経済主体の金融資産と負債の差額を表したもので、正(プラス)と負(マイナス)の値をとります。
一般的に英語表記ではFinancial net worthと表記されますが、当ブログでは正の場合は純金融資産、負の場合を純金融負債とも表記します。
2. 家計の金融資産・負債残高経済主体ごとに金融資産・負債残高を見ていきましょう。
ここでは、金融資産はプラス側、負債はマイナス側として表現します。
まずは家計の金融資産・負債残高を見てみましょう。

図1 資金循環 ストック 家計日本銀行 資金循環統計 より
図1が家計のストック(金融資産・負債残高)のグラフです。
特徴的なのは、資産側の現金・預金のボリュームが大きく、右肩上がりで成長している事ですね。日本の家計は先進国でも多く金融資産を持っていて、特に現金・預金の割合が多いのが特徴です。(参考記事: 日本人は本当に「お金持ち」?)
また、負債側の貸出が停滞しています。家計への貸出の多くは、住宅貸付ですね。
2021年の時点で、資産側の現金・預金は1088兆円、保険・年金・定型保証は538兆円、株式等は296兆円です。
金融資産・負債差額は増加を続けていて、2021年には1600兆円を超えています。
家計 金融資産・負債残高 1997年 → 2021年 単位:兆円 金融資産: 1286 → 2004 (+718) 負 債: 414 → 373 (- 41) 差 額: +872 → +1632 (+760)
3. 企業の金融資産・負債残高続いて、企業の金融資産・負債残高を見てみましょう。

図2 資金循環 ストック 非金融法人企業日本銀行 資金循環統計 より
図2が企業の金融資産・負債残高のグラフです。
特徴的なのは、負債側の貸出(借入金)が1990年代をピークにしてやや減少して停滞している点です。
企業は負債を増やして事業投資をする主体ですが、それが停滞している様子が分かります。ただし、他国と比べるとバブル期の借入金の水準が極めて高かった事には注意が必要ですね。
その後停滞とともに、現在は他国並みに落ち着いてきている状況です。(参考記事: 企業の「借金」は増えるもの?)
また、負債側に株式等が計上されるのも資金循環統計の特徴です。
法人企業統計調査を含め、通常の貸借対照表では、企業の株式(株主資本)は表記されませんね。
金融資産・負債残高を見る際には、企業の負債側の株式が非常に大きなポイントになると思います。
株式は、発行済み株数 x 株価になりますので、時価評価だと株価変動分も株式の変化として計算されます。
企業の資産側にも負債側にも株式等が計上されます。
日本企業の持つ外国の株式は、資産側の対外証券投資や対外直接投資に計上されます。つまり、資産側に計上される株式等は純粋に日本企業の株式になりますね。
負債側の株式等よりも、資産側の株式等の方が多いのは、他の主体の持分が負債側にも計上されているためです。(参考記事: 「株式」という企業の特別な負債)
企業間・貿易信用は資産側にも負債側にも計上されますので、ほぼ相殺されます。
2021年の時点で、資産側の株式等は369兆円、負債側の株式等は1068兆円、貸出(借入金)は540兆円です。
企業 金融資産・負債残高 1997年→2021年 金融資産: 738 → 1315 (+577) 負 債: 1378 → 2016 (+639) 差 額: – 640 → – 702 ( – 62)
4. 政府の金融資産・負債残高続いて政府の金融資産・負債残高について見てみましょう。

図3 資金循環 ストック 一般政府日本銀行 資金循環統計 より
図3が政府の金融資産・負債残高のグラフです。
政府は負債が増えている一方で、金融資産もそれなりの規模で持っているようです。
負債のうち貸出はやや目減りしていますが、債務証券が大きく増大しています。
債務証券の多くが、いわゆる国債ですね。2021年の数値で見ると、負債のうち債務証券が1193兆円で、そのうち961兆円が国債・財投債となります。
負債とともに金融資産も増えているため、金融資産・負債差額は2014年ころから横ばい傾向です。
政府 金融資産・負債残高 1997年→2021年 金融資産: 409 → 728 (+319) 負 債: 552 → 1421 (+869) 差 額: – 143 → – 693 (-550)