サヘル諸国はぎりぎり北半球に属するので、モンスーンなどの季節風もほとんど例外なく、西から東に吹きます。
ですから、西の大西洋岸から上陸した当座はかなり湿気の多かったモンスーンも、アフリカ大陸南端のソマリアにたどり着く頃には湿度がかなり低くなっている傾向が顕著です。
ですがそれは、ソマリアよりやや軽減されはしますが、西隣のエチオピアやケニアにも言える問題です。
また、これは農業にかぎりませんが、なんらかの制約によって生産高が低い地域は、そのハンデを克服することに成功すれば、飛躍的に生産高が伸びることがあります。
たとえば、降水量が少なくても生育の良い品種を栽培するなどの工夫が考えられます。実際に、同じようにアフリカ大陸の東端に位置するエチオピアとケニアは、国連食糧農業機関(FAO)の集計によれば、以下のようなすばらしい結果を出しています。
エチオピアの穀類生産高は、1993~2020年で470%増加。
ケニアの穀類生産高は、1990~2020年で730%増加。
それに比べて、ソマリアの穀類生産高は1990~2020年で70%も減少してしまったのです。
この極端な差は絶対に、地球温暖化のせいではあり得ません。
ソマリア経済を引き裂いた内戦ソマリアはもともとイギリスの植民地だった現在のソマリランドとイタリアの植民地だったソマリアがそれぞれ共和国として独立してから、連邦を形成した共和国連邦でした。
しかし、軍人出身でクーデターによって政権を奪った独裁者が隣国エチオピアに侵略戦争を仕掛け、結局撃退された頃から、ひんぱんに内戦が起きる国になってしまいました。
現在は、まだ国連には承認されていませんが、ソマリランドと、ソマリアに分裂し、そのソマリア国内でもソマリランドの抜けたプントランド州と南端のジュバランド州がそれぞれ自治を宣言し、断続的に内戦が続いています。
それ以上に大きな問題があります。
それは、軍事独裁政権を倒す際に活躍したアル・シャバブというイスラム教青年組織を、アメリカが「イスラム過激派テロリスト集団」と決めつけて、当初は陸軍まで派遣し、今もたびたび空爆をするなど、ソマリアの社会・経済不安定化に大いに「貢献」していることです。
このへんの事情は、高野秀行さんの『恋するソマリア』がお勧めです。ふつうの戦争・内戦ルポルタージュと違って、現地で暮らしている人たちの生活感覚をみごとに捉えているからです。
アフリカ東端3ヵ国で、先ほどご紹介したほど農業生産の成長に格差ができてしまった最大の理由は、世界最強の軍事力を持つアメリカが、内戦を収拾させるどころか、むしろ内戦の恒常化を狙っているような軍事介入を続けていることでしょう。
ですが、この事実もまた「地球温暖化による飢餓の蔓延」と片付けられてしまっているのです。