「ガバナンス不在」のままの原発政策の大転換を許してはならない

原発事業者である電力会社各社は、福島原発事故後も「ガバナンス不在」によって様々な重大不祥事を繰り返してきたが、その根本には日本の原賠法の特異な法的枠組みがある。

日本弁護士連合会からも、2016年8月に、「原子力損害賠償制度の在り方に関する意見書」が出され、

「原子炉等の製造業者に対する製造物責任法の適用を除外した第4条第3項は廃止すべき」

「原子力事故による損害賠償額が原子力事業者の支払い能力を超える場合において、原子力損害賠償・廃炉等支援機構法を活用するほか、原子力事業者の法的整理を必要とする場合に備えて、原子力事故被害者の損害の完全・優先弁済、原子力事故の収束・廃炉にかかる作業の確保等を含む新たな制度を整備すべき」

などと、現行の原賠法の枠組みの抜本的変更を求める提言も行われているが、政府には、検討を行う姿勢は全く見えない。

原発事業者の経営者に、13兆円もの損害賠償を命じる「異常な判決」は、これまで、電力会社という民間事業者を事業の主体とし、原子力規制委員会、経産省等が指導監督するという枠組みで行われてきた原発事業の枠組み自体の重大な欠陥を示すものだ。

岸田内閣が、従来の脱原発路線から、原発を電最大限に活用する方向への政策の転換を図るのであれば、本来、原発の安全性について最終的に責任を負うべき国自体が直接して原発の運営を行う「国有化」も含めて、原子力損害をめぐる法的枠組み自体を抜本的に見直すことが不可欠だ。

福島原発事故発生時、事故発生時の電力会社、国等の当事者対応の混乱を目の当たりにした我々は、原発の安全性にとって、施設自体の客観的要素だけではなく、人的組織的な面が極めて重要であることを痛感した。それは、多くの被災者に悲惨極まりない被害を与えた原発災害から我々日本人が得た「最大の教訓」だったはずだ。

岸田政権が、日本の原発事業の人的組織的な面の重大な欠陥と電力会社の「ガバナンス不在」を放置したまま、原発の積極活用に向けて政策の重大な変更を行おうとしていることは、チェルノブイリに次ぐ最悪の原発事故を経験した国民として、到底許せることではない。