司法制度改革、メディアを手中に
スタンシスキー氏:政治的に過半数を持つということを使って、憲法違反を行ってきた。ドゥダ大統領自身が何度も違反している。「法の支配」ではなく、「過半数」の方が上なのだ、と考える。何でもできる、法律も作れる、と
ビエリンスキ―副編集長:PiSの得票率は実際には35%だったのだが、比例代表制を使って、後で加えられた議席があった。連立政権を構成していた政党は十分な議席を獲得できず、最終的にPiSが過半数の議席を獲得するに至った。これを基に司法体制を崩壊させようとしている。最高裁に手を付け、今はほかの裁判所も変えようとしている。ポーランドの裁判官の半分が与党が実質的に選んだ人物だ。
スタシンスキー氏:もっと正確に言うと、ポーランドには1万人の裁判官がいる。そのうちの2500人が、2015年以降、「違法」に任命されたのだ。全国裁判所評議会(KRS)という、それ自体が憲法違反の組織が任命した。
全国裁判所評議会とは:ポーランド憲法によると、ポーランドの裁判官は全 国裁判所評議会の要請に基づき大統領により任期の指定なく任命される。評議会の委員は25人のうち、裁判官15人、残りが上下議員。司法の独立性を守るための構成だった。2017年、政府は裁判官委員15人を国会が選択するように仕組みを変更した。政権に近い裁判官委員が送り込まれるようになった。裁判官の懲戒手続きを行う懲戒院も最高裁に設置した。(参考: ポーランドの全国裁判所評議会)
スタシンスキー氏:私は全国裁判所評議会が違法だと思う。従って、この評議会がやることは反憲法であり、違法だと思う。欧州司法裁判所の判定を考えてみてほしい。
EUとポーランドの司法を巡る対立:2019年、欧州司法裁判所は全国裁判所評議会によって選出された裁判官や最懲戒院設置などをEUの理念に反する措置として是正を求め、20年4月、懲戒院の活動停止を勧告した。これに対し、ポーランドの憲法裁判所は欧州司法裁判所の判断を違憲とした。21年10月、欧州司法裁判所は是正を怠っているとして、1日100万ユーロの罰金を科す決定を行った。EUの欧州委員会は、懲戒制度がポーランドの司法の独立を脅かしEU法に反するとして、EUの司法裁判所に提訴していた。(参考:ポーランドにおける「法の支配」の危機と欧州連合、EU court rules against Poland in judiciary row)
スタシンスキー氏:欧州司法裁判所は、全国裁判所評議会が選定した裁判官は違法だという。欧州の司法制度や価値観に反する、と。
ビエリンスキ―副編集長:問題は、司法制度を変えると同時に、並行してメディア統制を始めたことだ。最初の犠牲者になったのは公共放送だった。2015年に選挙で勝利してからまもなく、公共放送にかかわる法律の改正を打ち出した。
ポーランド、政府の公共放送支配強化へ (NHK放送文化研究所「放送と研究」2016年3月号)
ポーランドの下院は2015年12月30日,公共放送の経営陣の任免権を政府に与えるなど,政府の影響力を強化するねらいのメディア法の改正を可決し,上院も翌31日,これに続いた。改正法は公共放送の独立性を損なうものだとする反発の声が国内外で上がっているが,政府は今後さらに「改革」を進めるねらいだ。
ポーランドでは,2015年10月の選挙で保守強硬派の政党「法と正義」が上下両院で勝利し,シドゥウォ政権が発足した。同政権は発足後すぐ,ポーランドの公共放送は前政権下であまりにも「左傾化」していたとして,大規模な公共放送改革の構想を打ち出した。今回行われたメディア法改正はその第一弾となるもの。これにより,公共放送のTVP(ポーランド・テレビ)とPR(ポーランド・ラジオ)の会長を含む執行部と内部監督委員会の任免権が,独立規制機関KRRiTから財務相へ移された。法律は2016年1月7日に発効し,翌日,TVPとPRの経営陣は交代した。
政府はさらに,今年6月末までに,現在,株式会社の形態を取っているTVPとPRを,「キリスト教的な価値を尊重し,愛国心と国家の伝統への意識を涵養する」ことを任務とする事実上の国営機関へと転換すること,現在の受信料制度を全世帯徴収型に移行させることなど,より大規模な改革を実行する計画である。(注:文中の「今年6月」とは2016年6月を指す。)
その後の一連のメディア法の改正によって、メディア界の粛清が発生した。
スタシンスキー氏:300人のメディア経営陣や編集幹部のうち、200人が職場を去った。退職が強制された場合もあった。ポーランドでは「ジャーナリスト」と言えば、与党の政策をプロパガンダとして広める人という意味になってきた。
ビエリンスキ―副編集長:ポーランド国民の3分の1は、公共テレビが主要な情報源だ。テレビのニュースを見て、国民は野党勢力を否定的な文脈で受け止めるようになった。リベラルな価値観を持つ人やEU、それにドイツのメルケル元首相に対してもそうなった。
2020年には米国で大統領選挙があったが、ポーランドの公共テレビはトランプ候補をほめ、バイデン候補を馬鹿にした。何もできない政治家だ、と。公共テレビが政治の戦いの武器になっている。
スタシンスキー氏:年齢層の高い人、教育程度が高くない人が特にテレビのニュースを信じ、政府批判をしない。
ビエリンスキ―副編集長:EUの意見など気に留めていない。政治に関心がないんだ。
スタシンスキー氏:英国がEUを離脱した時と少し似ている。「PiSは国民に約束したことを実行してくれる。社会福祉を手厚くすると言って、そうしたのだ」、と言って支持する。
ビエリンスキ―副編集長:政府が国民にお金を与えるということがそれまではなかった。今や児童手当がある。年金にも特別手当が追加された。
スタシンスキー氏:そんなことをしていると、インフレがより悪化する。今ポーランドのインフレ率は17%を超えている。EU平均のほぼ2倍だ。