「化石燃料中毒に終止符を」はG7向けか?

第9には、「化石燃料中毒に終止符を」というのなら、図1の23.2%を占める先進国G7以上にその合計が43.3%となる中国、インド、ロシアにもその指摘を正しく向けたほうが「中毒」の「終止符」が速いだろう。

第10としては、「30年までに再エネに年4兆ドル(約560兆円)を投資する」のはどういう国なのか(杉山、2022)。そして、設置後25年で確実に寿命が来る「再エネ」の解体・廃棄の費用はどこが支払うのか注4)。中満論文では何も書かれていない。

第11に、「50年までに排出量を実質ゼロにすべき」は国連主導の国際政治方針だろうが、科学技術面からは「逆に10%以上増加すると予測されている」。国際政治ならば図1のすべての国々がゼロ指向に舵を切ることになるし、科学技術面ならばG7やその他いくつかの高い技術力の国々に期待するしかない。

かつて失敗した「率先垂範論」を復活させるのか

第12には、「1.5度」のアンビションを達成するためには、……(中略)先進国はその先頭に立つ必要がある」。仮にG7が先頭に立って23%の排出量を20%に下げても、残り77%が現状を堅持すれば、10年前と同じように、「率先垂範論」は成立し得ない。

第13としては、最初は「先進国」と「途上国」の対比だった論文が、末尾に突然「新興国」なる概念が挿入された。この「新興国」には中国とインドは含まれるのか。また、ロシアはこの3者のどこに位置付けられるか。

「国連の正義」からだけでは「未来共有」は困難である

第14には、かりに「基金」が作動したとして、気候変動による災害を受けたいくつかの国々への配分は、どのような基準と方法で決められるのか。対応を間違えれば、GNとGS間の分断に加えて、新たにGS間にも分断と対立が生じる。この自明な国際政治のコンフリクトを、国連がうまく処理するノウハウがあるのだろうか。

なぜなら、第15としていえば、「説明責任を強化する仕組みを早急に構築する必要がある」のは、「社会のあらゆる場」ではなく、まずは国連安保理だと考えるからである注5)。

ウクライナ侵略戦争の解決に無力な国連が、「基金」をめぐる新たなGS間の分断と対立のみに有効な手段を持ちうるとは思われない。

そして第16としてまとめれば、「未来の世代に安全で幸福な人生を送ってほしい」のは全く同感であるが、まずはウクライナとロシアの現世代と未来世代が最優先の対象になる。

しかし、地球全体で「未来共有」するには、これまで展開してきたような疑義が残る「国連の正義」だけでは不可能であろう。「複数の未来像」の設計にも、国連は一層努力してほしい。