教養ある人々の驚くべきモラル劣化

私がアメリカに留学していた頃驚いたのは、アメリカで一流大学を出て子どもも大学に行かせられる程度の裕福な生活ができる家庭でのしつけの厳しさでした。

一般庶民の家庭では、キリスト教的な倫理さえ守っていれば、服装やことば遣いはかなり乱暴でも許されていたのに対し、思想的には非常に自由だけれども、服装や立ち居振る舞いについては、日本のいいとこのお坊ちゃん、お嬢ちゃんよりはるかに厳格でした。

それを考えると、サム・バンクマン・フリードが映像も収録されていることをわかった上で、バミューダ・ショーツとも七分丈のジョギング・パンツとも言いようのない服装で、膝を丸出しにして堂々と貧乏揺すりをしている画面を見たときには、びっくりしました。

これが貧乏揺すりの映し出されている画面ですが、ご両親とも貧しい人、弱い人を助けるための社会運動にも熱心な方々なのだそうです。

それでいながら、息子が公金横領でプレゼントしてくれたバハマの別荘をのうのうと使っていて、FTXが破綻したら「前から返そうと思っていた」と平然とおっしゃるご立派な人格で、なるほどこの親にしてこの子ありかと妙に納得してしまいました。

「人前で貧乏揺すりなどをしたら、それだけで無学で貧しい家庭の出身だと思われるから、服装や行儀はいつも立派に」という教育方針を捨てたことには、まったく異義がありません。

ただ、せめて精神面でまっとうな人間に育てようという努力があったかというと、当人たちでさえ世間向けの表面と内面はまったく違う方たちですから、子どもが似たような偽善ぶりをちょっと稚拙に披露してしまうのも無理からぬところなのでしょう。

それにしても、ご両親がスタンフォード大学正教授であるサム・バンクマン=フリードがマサチューセッツ工科大学(MIT)経済学部卒の学歴を持ち、彼の指導教官だった経済学部教授であるグレン・エリソンの娘は、スタンフォード大学で数学科の学士になっている。

このどちらも毛並みのいい学者一族の息子と娘がカップルになったら社会にどんなにすばらしい貢献をするかというと、本業ではいずれ運が尽きるとわかりきっている金融詐欺で暴走し、余技としては偽善に満ちた「効率の良い利他主義」を実践してきたわけです。

この闇の深さこそ、現代アメリカ社会の腐敗堕落を象徴しているのではないでしょうか。

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ismagilov/iStock

編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2022年11月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。