中でもビットコインは、今年の7月頃から何度か急激に売り先行で出来高が膨らんでいたのを、おそらく大口投資家がなんとか買い支えてほぼ横ばいの価格を維持してきたという経緯がありました。次のグラフが価格と出来高の関係を示しています。
グラフの右端、出来高がほぼ垂直に上昇する一方、価格がほぼ垂直に下落しているのが、11月8日以降のビットコイン市場です。
この暴落でとばっちりを受ける形になったのが、ビットコインを根拠資産とする投資信託商品の中でいちばん堅実な経営をしていて預かり資産総額も大きいグレイスケールビットコイン投信(GBTC)でした。
上段は持っているはずのビットコインの数に時価を掛けた数値に対して、GBTCが市場でどの程度に評価されているかを示したグラフです。
2021年2月頃まではビットコイン自体の先高感も手伝って、持っているビットコイン総額より割高に評価されていたのにその後一貫して割安が続き、11月8日からの大暴落では持っているビットコイン価格の4割安まで下げてしまいました。
もし、このGBTCの単位価格が示唆するとおりにビットコイン価格が動いたとしたらどうなっていたはずかを示すのが、下段のグラフです。直近では1万ドルを割りこむはずだということになっています。
GBTCの運用主体でもあり、ジェネシスという暗号通貨市場も経営し、コインデスクという暗号通貨中心の金融情報誌も刊行しているデジタル・カレンシー・グループ(DCG)は、業界最古参と言ってもいい企業です。
まさかこの会社が顧客から預かっているビットコインを流用して損失を出したなどとは考えられないので、これはビットコインがそのぐらい大きく下げる兆候かと思っていましたが、どうやら大間違いだったようです。
この会社もいつのまにか、どっと解約請求が殺到すると危ない内容のバランスシートになっていたらしく、11月22日には企業再生専門のアドバイザーを招いています。
諸悪の根源はトークンの乱発おそらくDCG転落のきっかけは、イーロン・マスクがまったくの冗談として「ドージ・コインというトークンを売り出せば大儲けできるのではないか」と言ったのがきっかけでDCGが売り出したドージ・コインが、実際にかなりの好収益を出してしまったことでしょう。
トークンとは、それ自体には価値がないけれども一定の価値を持ったものの代わりにやり取りするコインなどのことです。
たとえば、ニューヨークの地下鉄はインフレがひどくて切符の運賃を書き変えるのが面倒だった頃から、ずっと1回乗車するたびに買っておいたトークンをひとつ料金箱に投げこめばいい仕組みにしていました。
ギャンブル場でポーカーやルーレットをやるときには、カネを払って色や形でいくらかがわかるプラスチックの小さな円盤であるチップを買って現金ではなくチップを賭けますが、あれもトークンです。
国際会議などに代表を派遣した国が「あの国はトークン・プリゼンスがあっただけだ」と言われたら、何ひとつ発言もせず、議論を聞いていたかさえ怪しい国という辛らつな批判で、日本はしょっちゅうこう言われています。
暗号通貨の世界では、通貨の発行体も、市場運営企業も、ほとんど軒並み暗号通貨となんらかの関係があることになっているトークンを発行するのが定番になっています。
しかし、暗号通貨の世界に氾濫しているトークンがいったいなんの役に立つのか、いろいろもっともらしい「解説」を読んだり聴いたりしても、なかなか意味がわかりませんでした。