この点については、サム・バンクマン=フリード自身が、ウォールストリート・ジャーナルで金融関係の論説委員をしているマット・レヴィンの質問に答えて、明快に「あれはなんにも入っていないカラ箱だ」と断言しています。
「有力投資家がいくらで買った。しかも、個数が限定されていたり、取引停止期間があるなどの制限によって流動性が低いと、あっという間に価格が急騰する。値上がりしたトークンを担保に使って資金を調達して、別の金融商品を買うこともできる」と言うのです。
そのへんの事情をみごとに描き出しているのが、次のグラフでしょう。
FTXが発行したFTTというトークンを、もともとは親会社であり、破綻直前にも系列会社で私生活でもSBFのパートナーであるキャスリン・エリソンがCEOを務めていたアラメダ投資が高値で買う市場操縦でつくり出した、完全に人為的な高値です。
売り出した頃には1ドル70セントだったものが、最高値では800ドル近く、元値の約45倍に達していました。最近では本来無価値のものだったことにふさわしい元値に近づいています。
グループ全体の投資ポートフォリオを見ると個人投資家を欺して高値づかみをさせて売り抜けようという銘柄が多いのですが、もっと切羽詰まった事情があった投資対象も混じっています。
アラメダ投資による投資だけで済ませたソラーナも、投資だけでは済まずに結局FTX本体が買収せざるを得なかったヴォイジャーも、暗号通貨「関連」のトークンを売って儲けるだけの言わば現代ネズミ講です。
自分たちがやっていることだからわかりそうなものなのに、FTXがそのトークンを大量に買っていたので、これらの企業が破綻しかけたときにトークンが無価値にならないように防戦買いをしたというだけのことです。
それを「暗号通貨業界の破綻が増えている最中に敢然と社運の傾いた企業を次々に傘下に収める様子は、19世紀末から20世紀初めにかけてアメリカ銀行業界の大立て者だったJ・ピアポント・モーガンが1907年の金融恐慌時に多くの銀行を救済した姿の再来だ」と褒めたたえる金融専門誌があったのですから、世の中は広いと感心せざるを得ません。
それにしても、株や債券の世界で同じことをやったら、当然市場操縦で厳罰に処されるようなことを平然とやってこられたのは、いったいなぜでしょうか。
カネがすべての現代アメリカ社会を象徴だいたいにおいて、ヘッジファンドなど金融業界の新興勢力は民主党リベラル派を支持する人が多いのですが、サム・バンクマン=フリードは、その中でもジョージ・ソロスに次ぐ大口の民主党への献金者なのです。
かなり深刻な劣勢が予想されていた今年の中間選挙で、これだけ巨額の献金をしてくれるスポンサーですから、現在政権を担っている民主党としてもおろそかには扱えません。他の業界の他の人間がやったら当然罪に問われるようなことも、選挙期間中は見逃していました。
ただ、民主党としても付き合いが長くなったらいずれボロを出すことは間違いない相手と警戒していたようで、11月8日、まさに投票日当日にFTX破綻の噂が広まったのは、使い捨てにしたいスポンサーだったからでしょう。
民主党とウクライナ政権との仲立ちでも貢献しかし、この使い捨てスポンサーは期限限定とは言え、現バイデン政権には多大な貢献をしました。
アラメダ投資が設立された2017年にウクライナで創業したエヴァーステークは、世界中から集まる暗号通貨の義援金を取りまとめる実務を担いました。
ともに2019年創設のFTXとウクライナ政府デジタル変革省が、官民一致協力してアメリカのウクライナへの軍事支援を確固たるものにする仕組みをつくったのです。
2月末にロシア軍の侵攻があってすぐ翌月にこの口座が開設されたのですから、準備万端整えて待っていたというより、ドンバス地方への空爆強化などによってロシア軍を誘いこんだと言ったほうが適切でしょう。
もちろん、アメリカやNATO加盟諸国からの軍事・民政両面の支援と、世界中から集まる義援金によって、バイデン政権も、FTXも、ゼレンスキー政権もちゃんと儲かる仕掛けになっています。
中間選挙終了とともにあっさり切って捨てられたサム・バンクマン=フリードは呆然としているでしょう。ひょっとしたらあれだけ巨額の献金をしたのだから、もうどんな事件であれ刑事・民事の免責を確保したと思っていたかもしれません。
ですが、寄る年波でかなり衰えたとは言え、アメリカ連邦政府上院という金権政治の総本山で長年議席を保ってきたバイデンや、コメディアン出身のゼレンスキーとは、やはり役者が違う感は否めません。