デュアルキャリアの可能性

——セカンドキャリアの人よりも、デュアルキャリアの人のほうが紹介先の企業に採用されにくいと思えるのですが、いかがでしょうか。

木村:引退することが確定してるという観点では、現役アスリートよりも元アスリートのほうが雇用しやすいでしょう。

ただ、35歳の元アスリートは、25歳と比べると10年ほど差があるので、若い人材を求める企業からは採用されない可能性があります。

一方、成長の可能性が高そうな20代半ばのアスリートを採用したほうがいいと考える企業は少なくありません。年齢という観点では、デュアルキャリアのほうが有利な気がします。

——デュアルキャリアを受け入れる企業を、どのように探しているのでしょうか。

木村:デュアルキャリア=時短勤務者とイメージする人は多いのですが、よくよく話を聞いてみると定時まで働けるケースはあります。

そこで、アスリートが合宿の期間に有給を使う、もしくは企業が特別休暇を用意するなど、双方の落としどころを企業と話し合い、採用につなげている形ですね。

また、アスリートを採用した企業で、休みの日に従業員がアスリートの応援に行って仲を深めるといった福利的な効果が得られた場合、デュアルキャリアの採用が継続されることもあります。

——木村さんはアスリートに会った際、「完全に引退してから探すよりも、若いうちに仕事とスポーツをかけ持ちしたほうがいい」とアドバイスしますか。

木村:「自分がこの領域の仕事をしたい」という希望が少しでもあるなら、かけ持ちでもいいからやったほうがいいとアドバイスをします。仕事のキャリアや専門的な知識は、その仕事でしか積めません。

そのため、まったく無関係の次につながらないような仕事をするのではなくて、引退した後も継続的に積み上げができるような仕事をスポーツと同時にやっていこうと話します。

「競技技術だけ優先」は見直したほうがいい

——今後、事業をどのように発展させていきたいですか。

木村:スポーツを続けられる環境が手に入らない人や、スポーツを続けられなくなってしまった人を、もっと多くのアスリート・元アスリートの橋渡しをすることは、絶対的にやりたいことの1つです。

同時に、幼少期から大学卒業までスポーツに取り組んできた人に対して、経験や能力を社会で発揮するための育成プログラムも進めていきたいですね。

また、日本のスポーツがもたらす価値をバージョンアップしたいと言いますか、「スポーツで人を育てることの価値」を広めたい気持ちもあります。

我々はスポーツを通じて、いろいろな能力を開発できると考えているので、競技技術の向上だけを優先しすぎている状況なら、一度見直したほうがいいと思っています。

「スポーツや勉強に励みながらいい人材が育つ」というモデルを作ることが、我々が目指す方向です。

——小学生から大学生に対する教育プログラムにも取り組んでいると伺ったのですが、こちらの事業はどうされる予定ですか。

木村:今は大学スポーツ協会との共同事業という形で、社会人基礎力を向上させるプログラムを作り各大学・部活に実施している状況です。また組織マネジメントやリーダーシップといった、就職後さらに必要となるスキルや考え方の講座も実施しているので、1人でも多くの学生に提供したいと考えています。

また、18歳以下の高校生・中学生・小学生に向けた個人プログラムも実践していきたいですね。1人ひとりの自己実現のポテンシャルを引き上げつつ、文部科学省が実践している「キャリア教育(子どもが将来、社会で自分の役割を発揮しながら、自分らしい生き方を実現するための教育)」につなげられるようなプログラムになればと。