アスリート向けキャリアサービス業界の現状
——他社も含めて日本のアスリート向けキャリアサービス業界はどんな状況でしょうか。
木村:今まさに「スポーツで人が育つのか」「スポーツをやってきた人たちに、どういうキャリアを踏んでもらうのか」という点を真剣に考える気運が大きくなってきてる状況です。
近年は、JOC(日本オリンピック委員会)やJSC(日本スポーツ振興センター)などの機関が、オリンピアンを対象にして講座を行っています。
しかし、基本的には「アスリートとしてスポーツに取り組んで競技技術を磨くこと」を前提に、プラスアルファとしてキャリアに関する講座を行う形になってます。我々は「それは逆ではないだろうか」という発想で、今の事業を展開することになりました。
——最近は、アスリート向けのキャリアサービスを提供している人材紹介会社が増えているようですが、御社のサービスと体育会出身者向けサービスの違いは何でしょうか?
木村:最近は、アスリート向けにExcelの使い方や営業の仕方など「仕事のハウツー」を提供する人材紹介会社が増えていますね。
我々も仕事のハウツーを提供しないわけではありません。ただ、もう少し根底にあるもの、たとえば社会人基礎力のような「基礎力」をしっかりと底上げしていくことを重視しています。
選手が“主体”となって、能力を認知して開発するプログラムが少ない現状のなかで、「もっとキャリアを根本から考えるべきだ」という問題意識を持ちながらサービスを展開しています。
——体育会を対象とした就活は、前からあったのでしょうか。
木村:体育会学生向けに新卒の就職情報を提供するサービスや、体育会の学生を企業に紹介するサービスは昔からあります。
ただ、これまでの体育会向けサービスでは「アスリートとしてどうやってデュアルキャリアを続けていくのか」という点は、あまり考えられてきませんでした。
本来は、スポーツのなかで育まれた能力とあわせて、希望の業界や職種など「キャリアを積んでいけそうな可能性」を含めて話を進める必要があります。しかし、紹介事業として特徴が強い「体育会所属の学生」というラベルを求職者に貼り、スポーツ経験で培われた能力や競技成績以外のキャリアをほとんど考慮せずに、企業へ送り出すサービスが多かったと思います。
——マイナビアスリートキャリアが既存の人材事業と比較して、多くの人的コストがかかっている理由を教えてください。
木村:やはり「その人がどんな課題を抱えているのか」「どんな希望を持っているのか」を求職者1人ひとりと丁寧かつ何度も対話を繰り返し、対策を講じながら就職先を探している状態なので、非常に人的コストがかかってると思います。
あとは、紹介先に「アスリートがスポーツで培った能力を活かせる可能性があるから、推薦したい」という話をするといった、条件面重視の人材紹介サービスとは違った個人にカスタマイズしたアプローチをするため、工数も増えています。
それを承知で行っているのは、幼少期から時間をかけて取り組んできたスポーツ経験で開発された能力を、競技でも競技活動終了後にも社会でイキイキと活かし活躍できるように構造や価値観を整えることで、日本社会やスポーツ界にとって、スポーツする大きな意義をもたらす事業だと考えているためです。