現場で起きている混乱
ここまで在庫問題は市場縮小や予測偏重が原因だという話をしてきました。
次は組織運営上の課題に視点を移してみたいと思います。
年商約30億円を超えるあたりから、組織のサイロ化(細分化)という課題をよく見かけます。例えば、商品企画、仕入れ、マーケティング、物流、販売などという具合に、組織がサイロ化していきます。
年商が30億円を超え社員数も増えてくると、組織を役割ごとに分けるのは自然なことだと思うのですが、この時に業務やKPIが部分最適化してしまい、利益で横串を刺す全体最適な観点が薄れていってしまうのです。
よく見かける部分最適を紹介してみます。
・商品企画や仕入れ
「売れ筋商品を企画してほしい」「売れ筋商品を欠品させないで」と販売現場から言われる
・マーケティングや販売
「手元にある商品で売り場をつくり、売り上げを立ててほしい」と商品企画や仕入れから言われる
・物流
「売れ筋商品をもっと送ってほしい」と販売から言われる
もう何十年と組織のサイロ化が浸透してしまった企業も多いので、利益で組織に横串をさせる人材が社内にいないという問題も起きています。
抱えた在庫の半分も定価で売れない在庫過多が常態化した時代に、利益を軸に全組織の全体最適を図ることができないというのは、経営にとって大変大きな利益の機会損失を生む結果になります。
組織にこういった課題があると、市場縮小やそれに伴うビジネスモデルの変革に組織が追いつくことは困難です。だから余計に、「需要予測が全てだ」という予測偏重の考えが濃くなっていくという側面もあるのかもしれません。
全体最適を妨げるデータ分析上の課題
ところで、サイロ化した組織に利益で横串を刺そうとした時に、留意すべきデータ分析上の課題も存在します。それは、遅行指標と先行指標の使い分けです。
まず遅行指標についてですが、これは結果を表すデータのことです。小売企業がよく分析しているデータの中で遅行指標の代表的なものと言えば、在庫消化率、在庫回転率、交差比率などです。
これらはその時点の数字を集計した結果なのですが、問題は、遅行指標は結果を確かめるために使うものなのに、改善のために使おうとしてしまう企業が多いことです。
結果は結果に過ぎませんので、それを見て未来を変えることは不可能です。結果が出る前に改善の手を打たないと、結果は変わらないからです。
例えば算数のテストで50点をとったとします。もし仮に親から「70点ぐらいは取ろう」と言われたとしても、それは不可能です。
なぜならそのテストはもう終わっているからです。これが遅行指標です。本当に70点をとりたいのなら、チャンスは次のテストということになります。
しかし親から「次のテストは70点とってね」と言われても、70点とれるかどうかは不確実性が高いです。なぜなら気持ちの問題になっているからです。
実際は次のテストで70点をとりたければ、算数の勉強時間を増やすことなどを考えないといけませんよね。そうすれば次のテストで70点をとれる可能性が出てくるからです。
このように結果(遅行指標)に影響を与える指標のことを「先行指標」と呼びます。
アパレルの在庫に話を戻すと、プロパー消化率(販売した商品のうち定価商品の占める割合)を上げたい場合、マネージャーが担当者に「プロパー消化率を50%から70%に上げてください」と指示をしても簡単には上がりません。
おそらく担当者は「今までもそのつもりでやってきたのにどうすればいいの?」と頭を抱えるはずです。プロパー消化率は遅行指標だからです。
ということは、プロパー消化率の改善に影響を与える先行指標を見つける必要がありますよね。ちなみにプロパー消化率に影響を与える先行指標は2つあります。
1つは、完売するまでにどれぐらいの日数あるいは週数がかかるかという「完売予測日数(週数)」。もう1つは、これから未来の売上や利益にどれぐらい貢献するかという「売上・利益貢献度」です。
このような先行指標を見て仮説を立て、販促施策の実行数を増やすことでこの先のプロパー消化率が変化していくのです。