頂点には破壊が待っている

かつてオルテガは、「未来こそ過去を支配すべきものであり、われわれが過去に対してとるべき態度を指令するのは未来なのである」(オルテガ、1930=1967:85)とのべたことがある。私も近未来を中心にした「グローバル資本主義の終焉」の未来像を、過去から現在を確認するために新しい「社会資本主義」として探求してみたい。

温故知新の原点は古典的名著にあり、いつの時代でも期待を裏切らない。同じくオルテガは、「すばらしき頂点というものは、実は終末に他ならない。・・・・・・いわゆる頂点といわれている時代が、つねにその根底に一種独特な哀感をたたえている」(同上:31)とのべている。この90年前の「哀感」は、2022年の今日では、その親から虐待死させられた児童の儚い命にも強く感じる。

115年前の『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の結論部で、ウェーバーは「精神のない専門人、心情のない享楽人。この無のものは、人間性のかつて達したことのない段階にまですでに登りつめた、と自惚れるだろう」(1905=1989:366)とした。「専門人」と「享楽人」を対比させて、前者を「精神のなさ」で、後者を「心情のなさ」で修飾させ、ともに「資本主義」を壊す原動力となると見たウェーバーの透視力にはいつもながら脱帽する。

オルテガもウェーバーも、自らが生きた時代の頂点にそれを破壊する要因が登場してことを知っていた。1970年代から90年代の私はその問題にそれほど敏感だったのではないが、21世紀になって自らが終盤期に差し掛かってみると、「破壊要因の内在化」に実感が伴い、「資本主義の終焉論」の延長上に「社会資本主義」を想定するようになった。

(後編につづく)

注1)日本の高度成長期であれば、1947年48年49年3年間の出生数合計が805万人を超えた「団塊の世代」が就学期を迎え、膨大な消費需要を生み出した。卒業後には各方面に就職して、今度は豊富な若年労働力の源泉となった。いずれも当事者たちには競争原理が貫徹して、厳しい時代が続いたが、個人それぞれの業績達成の積み上げで、社会システムの生産・流通・消費過程では未曽有の高成長がもたらされたことになる。しかし、ここで検討する「少子化する高齢社会」は高度成長期とはことなる「人口法則」が働いている。

注2)数年前まで政府による少子化対策は「待機児童ゼロ」を前面に打ち出していたが、もはやその政策は聞こえなくなった。なぜならこれは当時の大都市だけの現象だったからである。すでに地方でも保育所・幼稚園では定員割れが生じている。加えて、大都市の自治体も熱心に民間保育施設を拡充する努力をしたこと、およびこの数年間で単年度出生数100万人が81万人にまで落ちこんだ結果、「待機児童ゼロ」への道筋が見えてきた。

注3)日本の総務省とマスコミとの関係の中で象徴的な行事として、例年5月4日に総務省記者クラブで4月1日付の「人口推計」結果が配布され、5月5日子どもの日に新聞各紙が「年少人口関連の数字」を報道するという慣習がある。なお、テレビニュースでは当日の夜と翌朝のニュースでくり返されることが多い。同じ方式で、9月の敬老の日にも高齢者関連の数字が発表される。

注4)希望出生率1.80は、2020年に策定された現行の少子化社会対策大綱に「令和の時代にふさわしい少子化対策」の目標として盛り込まれた数字である。

注5)この数字に対する危機意識の低さは、政財官界、マスコミ、学界など日本社会全体に見受けられる。

注6)2021年9月20日(敬老の日)にあわせ、総務省が2015年の国勢調査結果を基にした「高齢者人口推計」では、総数が3640万人で全体の占めるその比率は29.1%であった。

注7)この拡大と縮小のメカニズムに注目すれば、大企業だけではなく、日本企業全体の70%を超える中小零細企業でもビジネスチャンスは見つかるのではないか。そこでは、商品とともに、その部品の製造に特化したり、ネット通販などで販売方法を革新したりできる余地がある。

注8)統計数理研究所国民性調査は国勢調査の中間年に行われてきた。

注9)すぐ後で示すように、アメリカを除くGN(グローバル・ノース)の先進国では、「人口減少」に見舞われているので、マルクスでもウェーバーでも経験しなかった「人口減少社会」のなかでの資本主義の継続もしくは終焉が課題となる。私は多くの論者と同じく「終焉しない」より積極的には「継続する」条件を、「産業社会」論とともに「資本主義」論の一部を借用しながら追究している。

注10)「おひとりさまの老後ライフスタイル」もまた人口増加時代の申し子であり、高齢者よりも次世代や次々世代が増えて、その中から「老後」の支えにまわる若者の存在が前提にされている。しかし、令和時代になって、次世代や次次世代が確実に減少する中ではそのようなパラダイムは時代にはそぐわない。依然として増え続ける高齢世代が依拠する医療保険も介護保険も各種在宅サービスも、急速に減少する次世代や次々世代が支えるのだから。

文・金子 勇

【参照文献】

  • José Ortega y Gasset,1930,La Rebelión de las Masas.(=1967 神吉敬三訳『大衆の反逆』角川書店).
  • 金子勇編,2003,『高田保馬リカバリー』ミネルヴァ書房.
  • 金子勇,2006,『少子化する高齢社会』日本放送出版協会.
  • 金子勇編,2019,『変動のマクロ社会学』ミネルヴァ書房.
  • Keynes,J.M.,1936=1973,The General Theory of Employment, Interest, and Money, Palgrave Macmillan.(=2012 山形浩生訳 『雇用、利子、お金の一般理論』講談社).
  • 国立社会保障・人口問題研究所編,2012,『人口の動向 日本と世界 2012』厚生労働統計協会.
  • Marx,K,(traduction de Roy)(1872-1875)Le Capital,Maurice Lachatre et Cie(=1979 江夏美千穂・上杉聴彦訳『フランス語版資本論』(上下)法政大学出版局).
  • Mills,C.W.,1959,The Sociological Imagination, Oxford University Press.(1965=1995 鈴木広訳『社会学的想像力』紀伊国屋書店)
  • Streeck,W.,2016,How Will Capitalism End?Essays on a Falling System,Verso.(=2017 村澤真保呂・信友建志訳『資本主義はどう終わるのか』河出書房新社).
  • 上野千鶴子,2007,『おひとりさまの老後』法研.
  • 上野千鶴子,2009,『男おひとりさまの道』法研.
  • Weber,M.,1904-05,Die protestantische Ethik und der >>Geist<
  • Weber,M.,1924,Wirtschaftsgeschichte,Abriss der universalen Sozial und Wirtschaftsgeschichte,(=1954-1955 黒正巌・青山秀夫訳『一般社会経済史要論』(上下)岩波書店).
  • 野城智也,2016,『イノベーション・マネジメント』東京大学出版会.

文・金子 勇

文・金子 勇/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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