人口減少をめぐる社会学的想像力(前編)
ANGHI/iStock(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

1. 加速化する人口減少社会

ミルズの社会学的想像力

半世紀前に出されたミルズの『社会学的想像力』は、世界の社会学界でもすでに古典の扱いを受けている。それはいつ誰が読んでも知的な刺激が得られるからである。2022年8月9日に総務省が「住民基本台帳」に基づく日本社会の人口減少の一部を公表した際に、久しぶりにこの本を取り出して、若い頃に繰り返し読んだ当時の興奮を思い出した。

冒頭にかつて赤線を引いた箇所、すなわち「一体どの時代に、これほど多くの人間が、これだけ急速に、これほどのすさまじい変化に、これほど全体的に曝されたことがあったろうか」(ミルズ、1959=1965=1995:4)があり、50年前を追想して現在を考えてみた。

具体的にいえば、60年前のアメリカもそれから10年遅れの日本でも、時代の基調は産業化と都市化であった。そこでは社会を引っ張る主力産業が交代して、働き方が変わり、大都市への人口移動を伴ったから、産業構造と地域社会構造が文字通り激変の渦中にあった。いわば動きが「苛烈な大変動」の時期なのであった。社会学的想像力を駆使して、それらとその先に生じた高齢化と少子化とを考えてみよう。

「静かな大変動」としての人口減少

そうすると、現代日本の人口減少は「静かな大変動」ともいうべき構造を持つことが分かる。年少人口とともに総人口が一貫して減少することで、伝統的な個人の生き方と働き方が変わり、家族、学校、企業、マスコミ、経済、政治などの諸領域でもその事態に直面しつつ、的確な対処方法が見出せないままである。産業化と都市化とは異なり、少子化と高齢化は静かながら実に多様な分野にその波及効果を及ぼすからである。

「人口減少社会」の別称として私が命名した「少子化する高齢社会」(金子、2006)は、GN(グローバルノース)に属するほとんどの先進国で、産業化と都市化の頂点に登場した大きな社会変動である注1)。