二つの視点を往復させる
以下、ミルズの「社会学的想像力」を応用しながら、日本社会の人口減少の動向を素描してみる。その方法は、「個人環境にかんする私的問題」と「社会構造にかんする公的問題」(同上:10)を絶えず往復することに尽きる。前者はいわば「個人の身近な現象」であり、子どもが減った、高齢者が増えた、退職者が増えた、転職者が増えた、非正規雇用者が増えた、単身者が増えた、核家族も三世代家族も少なくなったなどが該当する。
後者は「個人からは遠い社会現象」であり、保育園や幼稚園の入学定員割れが過疎地域では始まった注2)。都市部の義務教育段階でもそれが生じた。そしてまもなく大学は入学定員割れが激しくなり、大学間の淘汰が現実化する。また高齢者関係では、高齢化がさらに進むことにより年金財政が圧迫され、高齢者医療費や介護保険費が膨張する。
市場でも子ども向けの商品ではヒットが出にくくなった。高齢者のニーズは増加して同時に多様化するので、それに向けた企業活動の焦点も変更を余儀なくされる。同時にAIなどの活用、すなわちデジタル化(DX)がさらに進むため、失業者が増えて、雇用問題が深刻化する。
「少子化する高齢社会」の到来に関しては、このような個人の側と社会の側からの一般的な変化の概略が可能であるが、まずは日本の人口減少の実際に迫ってみよう。
加速する総人口の減少
総務省発表を受け、8月10日に「人口動態調査」結果が全国各紙に掲載された。この数年の子どもの日の年少人口数とその比率の減少に関する報道に比べると、全国の新聞社の反応は鋭く、かなり丁寧で読み応えのある記事が各紙とも出そろった注3)。その理由として、おそらくいくつもの人口関連の日本新記録が誕生したからであろう。
今回の総務省発表では、日本総人口の13年間の持続的減少が主なテーマであり、これがそのまま第一番目の日本新記録となる。その結果、本年1月1日時点の「住民基本台帳」に基づく日本人人口は1億2322万3561人(外国人を含むと1億2592万7902人、以下は日本人データ)にまで低下した。しかも太平洋戦争中の1944年と45年を除き、下げ幅が61万人とこれまでよりも大きくなった。これが2つ目の日本新記録である。
そしてそれらに関連するいくつかのデータは、すでに広く知られた事実でもある。一つは、2021年の日本の合計特殊出生率が1.30となったことが挙げられる。この数年来これは1.35前後を維持していたが、2005年に記録した日本史上最低の1.26に向かい始めた。また、札幌市をはじめいくつかの政令指定都市と東京都23区ではもっと低い状態にある。政府の希望出生率は1.80ではあるが、もはやその域には達しえない注4)。
3つ目の日本新記録には、2021年の単年度出生数が81万人まで落ち込んだという事実がある注5)。統計が整備された明治23年(1890年)から2015年までの125年間、単年度出生数は毎年100万人以上の出生数であった。だからその出生数81万人は、日本史上空前の少なさである(国立社会保障・人口問題研究所、2012:41)。これらはもちろんミルズの「社会構造にかんする公的問題」に直結する。