個人投資家が巻き上げられたカネの落ち着き先
それでは、個人投資家が巻き上げられた資金は、最終的に巻き上げた企業のどこに落ち着くことになるのでしょうか。
これはもう、非常に形式的な論理を押し進めていけば、既存株主と経営陣に行くだけで、その企業に勤めている一般勤労者には回ってこないことがわかります。
まず、慢性的なインフレの中で減価償却を取得時原価に対しておこなっている企業は、それだけで帳簿上に資本・資産より大きな価値の資本・資産を蓄積していることになります。
これは、10%のインフレが続く社会で、100万ドルで取得した機械を20年間の定額償却をする場合を考えればすぐわかります。
20年定額で償却すれば毎年5万ドルずつ償却することになります。こちらはつねにその年のインフレによる貨幣価値の目減りがストレートに反映されるのでOKです。
ところが、取得時原価をそのまま持ち越した上で毎年の損耗分を償却すると、100万ドルで買った機械の当初の価値は何年経っても取得時原価の100万ドルのままに据え置かれるわけです。1年後の残存価値は95万ドルにしかなりません。
実際には、毎年10%のインフレが起きているのですから、取得時原価をインフレ率によって割増しして元は110万ドルあったということにしてやらなければ、貨幣価値の目減り分だけ残存価値を過小評価することになります。
重要なのは、こうした取得時原価据え置きのままの減価償却をしている企業にとって、帳簿上はインフレで貨幣価値が目減りした分の残存価値の増加補正分はまったく存在しないことになっているという事実です。
存在しないものを勤労者に分けてやることはできないので、この残存価値目減り分から生ずる資本・資金の「増加分」(正確にはインフレによる貨幣価値目減りの補正分)のうちほんの少しだけでも勤労者に分けてやることはできません。
帳簿上でも存在している投資分、配当分、自社株買い分を削らなければ勤労者への配分を増やすことができないからです。
というわけで、前回ご覧いただいたようにアメリカ経済全体における労働分配率低下のざまざまな要因の中で、最大の貢献をしているのは企業が現行の取得時原価からの損耗分差し引きというルールで減価償却をおこなっている事実だということになります。
いただいたご質問へのお答えとしては、以上のとおりです。