企業年金のひとつである厚生年金基金は、社会的・経済的な背景により廃止の方向に進んでいる。この記事では厚生年金基金が廃止に追い込まれた背景と、老後資金が不安な人のための対策方法を紹介する。厚生年金基金が廃止になっても慌てず、別の手段で老後資金を用意しよう。

厚生年金基金が廃止になる背景

会社員の老後生活を支える目的で始まった厚生年金基金は、1960年代以降に加入者が増え続けた。しかし、1990年代以降の社会動向の変動、バブル崩壊後の経済状況の悪化などにより、基金の運用難が発生するようになる。 それまで厚生年金の代行をしていた部分を国に返上し、基金が廃止されるケースが増えていった。 2002年に「確定給付企業年金法」が施行。厚生年金基金は、確定給付企業年金へ移行できるようになる。さらに、2012年のAIJ投資顧問事件 で、基金の代行割れが報道された。 代行割れとは、年金支給をするための積立金が、運用難などで不足している状態だ。代行割れが発生した基金に加入していると、年金が受給できない恐れもある。 このような背景により、厚生年金基金は廃止に向かっている。2014年に厚生年金基金法が改正され、基金の新設は認められなくなった。

【関連記事】厚生年金基金が廃止...老後資金が崖っぷち!今後どうしたら良い?(2022/02/05公開)

老後に向けていくら準備すればいい?

夫が60歳で会社を定年退職、妻が専業主婦である夫婦が日本人の平均寿命に近い85歳まで生きる場合、どのくらい老後資金が不足するのかシミュレーションしてみよう。

老後にかかる支出は約8,043万円

60歳以降にかかる支出だが、2018年の総務省「家計調査年報」よると二人以上の世帯の消費支出は、60~69歳までは毎月29万1,019円、70歳以上では毎月23万7,034円だった。この数字を参考に60~85歳までの夫婦の生活費を算出してみると以下の計算で求められる。

・29万1,019円(60歳以上の1ヵ月の消費支出)×12ヵ月×10年+23万7,034円(70歳以上の1ヵ月の消費支出)×12ヵ月×16(85歳−69歳)年=約8,043万2,808円

老後にかかる支出は生活費だけではない。歳をとるごとに病院にかかる回数も増えだろうし、若いころに買った住宅であれば修繕・リフォーム代も考えておく必要がある。医療費を300万円、リフォーム費用を300万円、そしてもしものときのための緊急予備資金を500万円として上記の生活費に加えると支出の合計は約9,150万円になる。

8,043万2,808円(60~85歳までの夫婦の生活費)+300万円(医療費)+300万円(リフォーム費用)+500万円(緊急予備資金)=9,143万2,808円

老後に得られる収入は約7,564万円

次に60歳以降に見込める収入を見ていこう。会社員の引退後の収入は、主に年金と退職金である。2019年1月に厚生労働省が発表した夫婦2人分のモデルとなる年金額は毎月22万1,504円だ。(夫が平均月額報酬42万8,000円で40年勤務、同期間妻が専業主婦だった場合)この額を65~85歳までの21年間受け取るとすると合計は以下のようになる。

・22万1,504円(モデルとなる夫婦の1ヵ月の年金額)×12ヵ月×21年=5,581万9,008円

ここに大卒の場合の平均退職金額である1,983万円を得られると仮定した場合、以下のような計算になる。

・5,581万9,008円(65~85歳までの夫婦の年金総額)+1,983万円(大卒の平均退職金額)=7,564万9,008円

老後に不足する金額は、60~85歳の支出から収入を引いた以下の計算で求められる。

・9,143万2,808円(支出)-7,564万9,008円(収入)=1,578万3,800円

今回は、片働きで夫が60歳で定年退職するという仮定でシミュレーションを行ったが、この状況に当てはまらない場合も多いだろう。共働き家庭や65歳まで再雇用で働く場合、老後の収入はさらに増えると考えられる。それぞれの状況に合わせ老後に必要な資金を算出してみるのがよいだろう。

【関連記事】老後の平均貯金額はいくら?40代のうちから老後資金を貯める5つの方法(2021/07/15公開)

厚生年金基金以外で老後資金を蓄える方法

(1)iDeCo(イデコ)
iDeCo(イデコ)は「個人型確定拠出年金」という制度で、60歳までの間に毎月一定の金額を自分で出し、投資信託や定期預金、保険などの金融商品を自分で選んで運用する。運用した掛金は60歳以降に受け取るという仕組みだ。運用益が非課税となったり掛金は全額所得控除となったりするなど優遇されているのが魅力。

iDeCoは企業年金制度のない会社員の場合、年額27万6,000円までとなっている。例えば現在40歳の人が年27万6,000円を20年間iDeCoに拠出し年3%の運用ができた場合は60歳時点で約755万円の資産になる。ただし老後のための制度ということでiDeCoは原則60歳まで引き出すことができない。また元本割れするリスクもあることは覚えておこう。 出典:国民年金基金連合会 『iDeCoってなに?』

(2)つみたてNISA
つみたてNISAは毎月一定額を出して投資信託を購入・運用し、運用で出た利益が非課税になるという制度だ。投資できる金額は年額40万円までで投資期間は2037年までという期間限定の制度である。仮に2019~2037年まで19年間つみたてNISAに年間40万円を投資し同様に年3%で運用ができれば約1,000万円年金に上乗せできる計算だ。つみたてNISAで投資信託を運用する場合、当然ながら損失が出るリスクもある。
出典:金融庁『つみたてNISAの概要』

(3)個人年金保険 
個人年金保険は、現役時代に毎月一定額を支払ったり一括で一時金を預けたりして契約時に定めた年齢(60歳、もしくは65歳など)から一定期間保険金が受け取れる保険のことだ。例えば65歳から5年間毎年100万円を受け取ったり終身で一定額を受け取ったりすることができる。保険金の受取前に保険加入者が死亡した場合は、遺族に死亡給付金が支払われる仕組みだ。

掛金が大きく増えるものではないが、将来受け取れる額が決まっているため計画が立てやすい。個人年金保険も加入後早期に解約すると元本割れすることは覚えておこう。

【関連記事】老後の貯金はいくらあればいい?40代での理想の貯金額は?(2021/07/15公開)

老後資金の計画は早めに立てよう

年金制度は改正が多く、複雑であるため、よくわからないと悩む人も多い。さらに、将来的自分がもらえる年金は、現在の年金受給者と比較し減少していく可能性が極めて高い。退職金や年金だけに頼らず、自ら資金を準備していく心がけが不可欠だ。

老後資金計画は早いに越したことはない。まだ考えていなかったという人は、ぜひ一度老後の生活をシミュレーションするところから始めてみてはいかがだろうか。

文・MONEY TIMES編集部

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