地方創生はMISD(ミスド)から
私は地方における定着者中心の創生を試みる条件を、
- 「M」 モビリティ(移動と前進)
- 「I」 イノベーション(創意工夫)
- 「S」 セットルメント(定住と日常の絆)
- 「D」 ディバーシティ(多様化と個性)
とする(金子、2018:209)。
地方創生の事例研究から重視しておきたい要因を、MISD(ミスド)としてまとめると、地方創生とは、多様な人材が個性豊かに活動できる環境を創り、階層移動と地域移動を促進して、地方に定着した人々の日常の中で、新しい生産、交易、消費のいずれかで創意工夫が発揮できる条件づくりをめざす運動とみなせる。
MISDのいずれかを手掛かりに地方日本の「少子化する高齢社会」への対応をめざす実践課題として、天然資源と歴史的地理的条件さらには世界遺産と日本遺産を活用し、いかにして地方創生に結びつけるか。さらにご当地ソングやドラマの撮影地などで、小さなイノベーションを誰が開始し、継続的に実行するか。そして、これらを束ねるのが政治家の仕事になる。
「計画にさいしては全体にたいする知識を育成しなければならない」(マンハイム、1935=1976:61)は当然だが、予算審議で次年度計画全体を議論することが業務である政治家もまた、「全体にたいする知識」をもつようにしておきたい注7)。
佐賀県吉野ケ里町の小水力発電
世界的に「脱炭素」やCO₂排出を減らす発電が注目されている中で、佐賀県吉野ヶ里町の試みは発電最大出力30kW(平均23.5kW)の小水力発電ながら、独創性のある将来性に富む事業である。
とりわけ吉野ケ里町松隈地区の全世帯が農家で5000円、非農家で4000円の出資をした「松隈地域づくり株式会社」が事業の主体となり、建設費総額6000万円のうち2割を地区住民が負担し、残り8割が日本政策金融公庫無担保融資を受けた。事業目的も生活道路の補修や高齢者の移動手段確保など身近さに徹している。しかも事業資金としての県からの財政支援はなく、独自の調達となった。
さらに、九大とのベンチャー連携事業であるところにも発展の可能性がある。徹底したコスト管理や実行の過程では専門的な支援が必要であるから、小回りの利くパッケージ化も含めて、自治体と大学とのベンチャー事業としての先見性にも富む。
平成27年(2015年)4月から企画開始されたこの事業は令和3年(2021年)3月に最終年度を終えたが、最終年度の年間売電額は700万円前後であった。ちなみに年間総発電量は205,882kWhであり、これを1kWh34円で九電に売却すると、その売上げとなる。
今後も継続的に30kw級でも収益性が確保されるという見通しであり、この事実は事業の全国的拡大への根拠を与えるので、世界的なエネルギー供給の変動を受けて、地に足のついた地方創生の起爆剤として、大きな期待を集めると思われる注8)。