アベノミクス

2012年12月から2020年9月まで続いた安倍内閣のいわゆるアベノミクスは、第一の矢が「金融政策」、第二の矢として柔軟な「財政政策」、そして第三の矢が「構造改革」として構成されていた。この「構造改革」が、「人口減少を克服し、日本の地方経済を再活性化するための長期的展望」を示し、合わせて2014年12月に内閣承認の「包括的戦略」も取り込んでいた。

「構造改革」の主内容が「地方創生」であり、この動向に沿うように刊行された増田編(2014)では日本全国の1800余りの自治体のうち、896の自治体が数十年後には消滅すると名指しで予告された。それによって、それら自治体を中心にして「地方消滅」をめぐり全国的な論争に火が付き、「地方創生」論は脚光をあびて登場した注1)。

より具体的には「まち・ひと・しごと創生法」(2014年)により、

  1. まち:国民一人一人が夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営める地域社会の形成
  2. ひと:地域社会を担う個性豊かで多様な人材の確保
  3. しごと:地域における魅力ある多様な就業の機会の創出 の三位一体的な追求がなされるようになった(濱田・金子、2017a;2017b)。

コミュニティのDLR理論

同じ時期までに私は、過去25年間で全国の10を超える地方都市において、近未来に確実に訪れる「少子化する高齢社会」を具体的な課題とした調査を継続してきた。そこでこの経験を活かそうとして、コミュニティのディレクション(D)とレベル(L)に社会資源(R)を加え、DLR理論としての総合化をめざすことにした注2)。

図1は、コミュニティのディレクション(D)と住民の力のレベル(L)を接合して、コミュニティのDL理論を探究した鈴木モデル(鈴木、1976)を下敷きに、資源(R)としてのリーダーシップと社会資源を新しく加えた理論化の試みであった。社会的な価値がある目標の達成の手段はすべて「社会資源」とみなすので、ここでは天然資源だけではなく、地理的資源、産業的資源、歴史的資源、人的資源なども文脈に応じて「社会資源」として使っている(金子、2016)。

政治家の基礎力(情熱・見識・責任感)⑬:地方創生
(画像=図1 地方創生とコミュニティDLRの関連図、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

コミュニティDLR理論は、日本地域社会研究の原点をなす柳田國男と鈴木栄太郎それに宮本常一の研究を出発点として、歴史的には全国総合開発計画、一村一品運動、内発的発展論、地域活性化論、そして比較コミュニティ研究などの膨大な内外の実証的な地域研究文献との接合により生み出された。