「転換日本」の事例研究

個別事例の追求と普遍的総括はいわばクルマの両輪なので、内発的地域創生関連としても、世帯数が数十から数百程度の集落での創生に向けた活性化の成功事例を紹介するだけでは、今後の地域消滅と創生にとって建設的な議論とはいえない。

「地域創成」を展望して、同時に「転換日本」を展望した月尾(2017)の試みもこの文脈に位置づけられる。月尾は「国家主導の地方創生」から「地域主導の地域創生」への転換を、全国16の成功事例の紹介を通して主張した。

いずれも「転換」が強調されたが、その領域は、集落、空家、商業、施設、観光、鉄道、漁村、農村、農業、林業、漁業、離島、交通、情報、資源、医療に広がっていて、大変興味深い読み物に仕上がっている。それぞれの転換の着眼点では、リーダー(ひと)、資源(もの)、インフラ施設に大別できる。

「転換」の成功例

まず新しいリーダーの登場で「転換」に成功した事例には、集落(限界集落)、空家、商業(カフェ、レストラン)、農村(農村料理レストラン)、離島(外部人材)、資源(葉っぱビジネス)、医療(保健指導員、食生活改善推進員)の7例がある。

次に、資源の見直しや新しい活用方法が有効だった「転換」では観光(冨士宮やきそば)、漁村(塩づくり)、林業(森林資源)、漁業(定置網漁)の4例が該当する。第三には、インフラ施設の活用で「転換」に成功した事例として、水族館、鉄道(ひたちなか海浜鉄道)、農業(里山里海)、交通(コンパクトシティ)、情報(インターネット)の5例が入った。

いずれも分かりやすい説明ではあるが、リーダーが登場した背景も資質も異なり、別の地域でそれらをそのまま借用できない。もちろん資源としてもやきそばなどはどこにでもあるので、やきそばを使って地域創生を模倣しても成功しない。葉っぱビジネスも農村料理レストランでも同じ問題を抱える。

読者からすれば、執筆者が個別の成功事例を紹介したうえで、その普遍性をまとめることを求めたくなる。それがないと、成功事例が参考にはなっても、新しい取り組みへのきっかけにはなりにくい。