日本での薪ストーブ規制と欧米の動向
● 日本国内では
日本国内の現状は絶望的な状況と言わざるを得ない。調査を進めるほど、惨憺たる無策と、行政と癒着した薪ストーブ業界の、法規制が無いのを逆手に取るような、やりたい放題が露見してくる。
これは欧米でも同様である。報告では、英国、ドイツ、オランダ、ベルギー、カナダ、アメリカでの、薪ストーブ業界が政府、行政機関や議員と密接で不適切な関係を維持(もちろん金銭提供も有るという)して、規制を強化しないようにロビー活動を繰り広げているという。
日本国内では、排煙や臭気を規制する法律や条例が無い状態で、「個人の権利」「商売の自由」という権利だけが濫用され、近隣住民の「きれいな空気を自由に吸える権利」が一方的に侵害されている状態を、行政も、薪ストーブ関連業界も、意に関せず販売設置を進めている不誠実な現実がある。
通常使用しても煤煙臭気を発生させる器具を製造販売する者の製造者責任、また使用者が煙に対する責任は全く問われることがないという、異常な状況が長期間放置されている。
設置に関しては火災予防目的で消防法があるものの、排煙自体については全く規制されていない。過去の慣習から来る容認姿勢と、一般民間人はあまり他人に迷惑になる悪いことはしないであろう、という古い性善説とが、排煙規制が未だに検討されていないもう一つの原因であろう。
工業地帯では煤煙悪臭や有害物質を出すが、一般住宅からは有害な煤煙悪臭は出ないであろう、という前提で悪臭防止法では民家は対象外であるが、これも今後は適用範囲とすべきであろう。生活環境を脅かす懸念がある発煙行為は発生源を問わずに制限されるべきである。
● 欧米では
日本の薪ストーブ関連業界はいう。日本国内でも欧米並みの普及を目指したいと。行政も、税金を原資とする補助金を出してまで普及を目指すという。
しかし、何でもかんでも欧米と同じにする合理的根拠は無い。各個人の単なる憧れや趣味、心情面の問題でしかない。欧米や豪州では、住宅地や都市で少数の者が趣味的に使用する薪ストーブの煤煙悪臭により、その他の多くの住民を苦しめる深刻な大気汚染を激化させているという。
2015年規制クリアの「新しい」薪ストーブに置き換えが進み、それでも問題は相当に悪化しているという。基準クリアというのは問題解決策にはならないと、現状の欧州で証明されている。この流れを受け、デンマークのコペンハーゲンでは遂に木材燃焼暖房が禁止になった。日本で、なぜその悪しき大気汚染まで真似する必要があるのか。
欧州では、ヒートポンプ式暖房が高所得層に広まりつつあるという。空気を汚すことの罪悪感と、木材燃焼煙の健康への悪影響が浸透しつつあること、煤煙をまき散らすのはスマートではない、という価値観の大きな変容もあるという。薪ストーブを使用しているのは低所得層と、趣味で使用している者が主だという。
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筆者は温暖化に賛同でも懐疑でもなく、どちらかといえば少し温暖化しているかという程度で、そこまでひっ迫しているとは思えない。
地球温暖化による気温上昇は0.06度で体感不可能
脱炭素を第一に進めるあまり、特に木質バイオマス燃焼が欧州で問題化している。大気汚染と森林破壊が過剰になり、本末転倒状態であるとの指摘がされている。EUの環境委員会は、木質バイオマス燃焼を再生可能エネルギーから除外し新規の補助金を停止するという。
その主な理由は、森林伐採、環境破壊、大気汚染、健康被害が挙げられている。自然素材の樹木を燃焼させても有害としている。
欧州人は或る意味で変わり身が早い。10年前の脱炭素の常識などあっさり捨て去ろうとしている。高所得層ほど早期にスマートで環境負荷の低い「燃やさない電気暖房」に確実にシフトする。
その流れを日本でも真似してはどうか。欧米並みを言うなら、すぐに追随する動きを見せてはいかがであろうか。大気汚染をしながら、近隣の多くの住民に、まさに「煙たがられながら」暖をとるのは、もうクールではない。
二酸化炭素やメタンは通常濃度であれば無害であり大気汚染物質ではないが、燃焼により生じるPM2.5やNox,Sox等は有害な大気汚染物質であるのは科学的、医学的常識である。
最近の研究例から。木材燃焼煙の有害性の指摘、本場のスウェーデン北部のウメオ大学の研究者による。薪燃焼由来の大量の煙がある住宅地の人々は、認知症のリスクが30%高いと発見。暖炉のある家庭ではリスクは70%増加。隣人による他人への薪ストーブ暖炉による健康被害、有害性が科学的に証明されている。
● 日本で広く普及しないのは当然
薪ストーブは煤煙と燃焼臭気を必ず出す。無煙無臭などあり得ない。現状で都心や住宅地で煙突が林立するほどに普及しない理由は子供でも分かるほどに簡単。煙とにおいが近隣に迷惑になることを、多くの人が理解しているからである。
逆に言えば、煤煙悪臭さえ出なければ、全く問題無い。
それでもどうしても薪ストーブを使用したいのであれば、排気浄化装置を付加すれば、都会のピザ窯同様に気兼ねなく火炎を楽しめるようになるはずだ。
何度も繰り返すようだが、薪ストーブで苦情が来たなら、いや、苦情が来る前に、まずこの機器を装着してほしい。一軒からの苦情は数十軒以上多数の潜在被害者が存在することを認識したほうが良い。
薪ストーブ用すす取り装置「ススとり君home」 株式会社クリエ (c-clie.co.jp)
このような装置が存在するのは、木材燃焼煙は臭くて汚いという事実からである。
現状の薪ストーブ用排気浄化装置ではこの機器が最も高性能であり、強く推奨する。それこそ、環境意識と周辺への配慮の印であり、隣人たちから感謝されること請け合いだろう。僅か、たったの100万円で大気汚染を防止しながら薪ストーブを使用できるなど、とても素晴らしいことだと思って頂きたい。
火への畏敬の念を持て、と仰られる方がいるが、その前に、隣人たち、人間への畏敬の念を持って頂きたいと願うものである。
再三ながら最後に付け加えたい。日本の医師や研究者で、薪ストーブ、木質燃焼の有害性と健康被害についての研究は一例も無いはず(世界には多数の研究論文が存在するのに)だが、この研究をされると、名誉ある第一号の称号が得られる。志ある研究者の登場を待ち望むものである。
編集部より:この記事は青山翠氏のブログ「湘南に、きれいな青空を返して!」2022年7月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「湘南に、きれいな青空を返して!」をご覧ください。
文・青山 翠/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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