村落から都市へ
エンブリーの場合、人類学的手法による1930年代の日本(熊本県)農村調査という制約があるが、それでも伝統的なコミュニティ論が持っていた概念の幅に収まっている。
境界限定の地域社会と施設(生態学)、地域社会構造と社会関係(社会学)、地域意識と慣行(社会心理学)に分類すると、人類学の手法は現地住み込みの参与観察法を駆使するので、これらすべてを網羅してしまう。その意味でも、『須恵村』は1930年代当時の日本農村社会の断片を鋭く描き出した作品であるといってよい。
社会学での中心は地域社会構造と社会関係であり、合わせて限定された地域における施設や住宅なども取り上げる。ただし地域意識や規範などは、社会構造やソーシャルキャピタルを媒介としたコミュニティ意識として実証的に研究されてきた。コミュニティモラールとノルム(鈴木、1978)やコミュニティモデル(奥田、1983)などは、農村だけではなく都市でも標準的なコミュニティ意識として活用されてきた。
実体概念と規範概念としてのコミュニティ論
一方では、農村研究での現実的コミュニティ論があり、他方では、資本主義の将来への期待概念として都市コミュニティ論が存在する。これらの先行研究の多くを取り込んで、しかも現代社会でも通用するコミュニティ像を求めて、実体概念と規範概念として組み立て直したことがある。
具体的には、以下のような二項対立的な姿を描くことになった(金子、2011a:2)。
コミュニティ論における二項対立
- 実態としての存在性 ⇔ 象徴的な存在性
- 目標としての有効性 ⇔ 手段としての資源
- 戦略としての現実性 ⇔ 動員できる可能性
- 歴史性を帯びる概念 ⇔ 将来性に富む概念
- ソーシャルキャピタルか ⇔ アイデンティティ意識か
- 社会システムか ⇔ ソーシャルキャピタルか
- 空間性を帯びるか ⇔ 空間を超越しているか
- 政治社会的概念か ⇔ 精神文化的概念か