コミュニティの伝統的使用法
その一方で、日本における実証的農村研究を通して膨大な蓄積があった人類学や社会学では、ようやく新・全訳が刊行されたエンブリー(1939=2021)に象徴されるように、次のようなコミュニティの使用方法が認められた。
訳本で400頁の本文でコミュニティという単語が使われていた頁は41か所であったので、便宜上通常の分類に従い、境界限定地域(locality-based)、地域関係集団(地域社会構造・ソーシャルキャピタル)、地域意識文化(アイデンティティ・精神文化)の3種類に分割した。そうすると、表1が得られた。
実際に「境界限定地域」の使用に該当すると私が判断した文章は、たとえば「生活の全ての詳細を考察できる規模のコミュニティ」(同上:15)、「須恵村には全部で17のこうしたコミュニティがある」(同上:56)などの表現が挙げられる。
ソーシャルキャピタルとしてのコミュニティ
「地域関係集団」はさすがに多く、このうち「地域社会での関係」が18か所、地域で暮らす人々の「ソーシャルキャピタル」が13か所になっている。
前者には「日本の村落コミュニティの暮らし」(同上:13)、「農村コミュニティには、……(中略)親密な地元の集団、強い血縁関係、神聖な自然環境を敬う季節的な集まり」(同上:20)、「コミュニティの資産家」(同上:191)、「長い伝統を持つ古くて安定した農村コミュニティ」(同上:286)などの使用法が例示できる。
また「ソーシャルキャピタル」の事例としては、「コミュニティのこの共同労働」(同上:153)や「両親は、家族をもう一人コミュニティに加える」(同上:231)、「コミュニティ、もしくは社会的関係を持つ個人のネットワーク」(同上:352)などがある。
そして「地域意識文化」は、「コミュニティの考え方の全てが、コミュニティの環境や生き方に即して説明できるわけではない」(同上:348)、「コミュニティの信仰と祭り」(同上:353)などに象徴される。