コモンの領域とコミュニティ
それから12年後にも、経済思想の専門家が「脱成長コミュニズム」の結論部分で、「コモンの領域を拡げ」(斎藤、2020:356)、「顔の見える関係であるコミュニティや地方自治体をベースにして信頼関係を回復していくしか道はない」(同上:357)とのべている。
これらの広義の経済学的な論理と実例に接すると、40年以上コミュニティ社会学の研究を生業としてきた私は、戸惑うばかりである。
なぜなら、社会学では温かな「コミュニティ」の有無という出発点の事項が、経営学や経済学それに経済思想を踏まえた政治経済学では結論になっているからである。
この種のねじれの原因は、本来の意味でコミュニティ全領域を扱ってきたはずの社会学の非力性はもちろん、隣接分野からの社会学的業績の摂取が不足しているからであろう。その成立当初から、社会学では広い意味のコモンやコミューンそれにコミュニティを論じてきた歴史があるのに、それが社会科学全体では共有されていないのである注4)。
「コミュニティ」はtimeless questions utopian model
社会学界内部の量的な蓄積は膨大であり、コミュニティがtimeless questions utopian modelだとして、そこから経験的に認識可能な理論へと転換する試みは学界内部ではほぼ共通に認められる。
コミュニティの要として、これまでも共同、共働、協働、協力などの組み合わせが作られてきたが、コミュニティ論の決定版は得られていない。その意味でコミュニティは、論者が使う指標次第で現状認識にも将来展望にも使用されてきた。
コミュニティへの新たな問いかけ
社会学説のなかでコミュニティとは何か、コミュニティはなぜ必要か、コミュニティは何の役に立つのか、コミュニティは何を指標とするか、コミュニティはどのような状態にあるか、コミュニティをどのように作り出すのかなどを、実態面と理念面を往復運動し、理論的立場や実証の分野から具体的に明らかにしようという問題意識で、私は学界デビューした(金子、1982)。
それまでの研究史を概観して、それは「コミュニティの三角形モデル」に結実した(図1)。
これは大学院時代から恩師鈴木広博士のコミュニティ調査の手伝いをして、綜合社会学的な社会認識としてヒト、モノ、ココロの三次元を知り、先行研究から学んだ結果、簡単なコミュニティモデルとして発表したものである。